日本大百科全書(ニッポニカ) 「恋飛脚大和往来」の意味・わかりやすい解説
恋飛脚大和往来
こいびきゃくやまとおうらい
歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。2幕。1796年(寛政8)1月大坂・角(かど)の芝居初演。外題(げだい)は「こいのたより~」とも読む。通称「梅忠(うめちゅう)」「封印切(ふういんきり)」「新口村(にのくちむら)」。梅川忠兵衛(うめがわちゅうべえ)の情話を脚色した近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『冥途(めいど)の飛脚』の増補改作(辰岡万作(たつおかまんさく)ら)で、構成は菅専助(すがせんすけ)、若竹笛躬(ふえみ)作の浄瑠璃『けいせい恋飛脚』(1773)に拠(よ)る点が多い。飛脚屋亀屋忠兵衛が愛人の遊女梅川をめぐって恋敵(こいがたき)の丹波屋八右衛門(たんばやはちえもん)と新町井筒屋で張り合ったあげく、預り金の封印を切って梅川を身請けし、故郷の新口村へ駆け落ちする話。原作では忠兵衛の友人である八右衛門を敵役とし、忠兵衛が実父孫右衛門に別れを告げる「新口村」を雪景色に仕立てた点が特色で、また封印を切るところは、たいてい八右衛門と争うはずみに誤って切るという段取りで演じられる。忠兵衛は上方和事(かみがたわごと)の代表的な役で、近世では中村鴈治郎(がんじろう)(初~3世)、片岡仁左衛門(にざえもん)(11~15世)、実川延若(じつかわえんじゃく)(初~3世)の各家に独自の演出が伝わる。
[松井俊諭]