冥途の飛脚(読み)めいどのひきゃく

精選版 日本国語大辞典 「冥途の飛脚」の意味・読み・例文・類語

めいどのひきゃく【冥途の飛脚】

浄瑠璃世話物。三巻。近松門左衛門作。正徳元年(一七一一)頃、大坂竹本座初演。大坂の飛脚問屋亀屋の養子忠兵衛は遊女梅川になじみ、金に困っていることを友人八右衛門に暴露されて逆上公金三百両に手をつけて、梅川とともに郷里新口(にのくち)村に逃げ、実父に別れを告げるが、捕らえられる。近松の代表作の一つ。八右衛門を敵役にした改作がしばしば上演される。梅川忠兵衛梅忠

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デジタル大辞泉 「冥途の飛脚」の意味・読み・例文・類語

めいどのひきゃく【冥途の飛脚】

浄瑠璃。世話物。3巻。近松門左衛門作。正徳元年(1711)大坂竹本座初演。大坂の飛脚問屋亀屋の養子忠兵衛は新町の遊女梅川を身請けするため、公金に手をつけ、梅川とともに故郷新口村にのくちむらに逃げるが捕らえられる。通称「梅川忠兵衛」。

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改訂新版 世界大百科事典 「冥途の飛脚」の意味・わかりやすい解説

冥途の飛脚 (めいどのひきゃく)

人形浄瑠璃。世話物。3巻。近松門左衛門作。1711年(正徳1)3月《新いろは物語》の切浄瑠璃として初演されたという(《外題年鑑》)が確証はない。ただ,同年の初秋以前に,大坂竹本座で初演されたものと推定されている。実説の詳細も不明であるが,世間の評判となった事件らしく,浄瑠璃にも歌舞伎にも先行作がある。大和新口(にのくち)村の百姓孫右衛門の子忠兵衛は,訳あって大坂の飛脚宿亀屋の養子となり,商才を発揮していた。しかし,新町槌屋の遊女梅川になじみ,遊興費にも事欠く有様。その梅川に身請け話が持ち上がり,忠兵衛は向うを張って梅川を請け出そうとする。金に困った忠兵衛は,友人丹波屋八右衛門のもとに届けられた為替金五十両を着服,手付けに当てる。事情を知った八右衛門は,忠兵衛の行く末を案じ,廓に行って一切を語り,彼を寄せつけぬようにと頼む。それを立ち聞きした忠兵衛は立腹し,男の面目を立て,梅川の無念を晴らそうと,懐中していたお屋敷の為替金三百両の封を切って八右衛門にたたきつけ,梅川を請け出して新口村に落ちて行く。2人は孫右衛門によそながら別れを告げて逃げ延びようとするが,捕らえられる。本作以後,《けいせい恋飛脚》や,それを歌舞伎化した《恋飛脚大和往来(こいびきやくやまとおうらい)》(〈こいのたよりやまとおうらい〉とも。通称《梅川忠兵衛》《封印切》《新口村》。1796年1月大坂角の芝居)などの改作が現れたが,いずれも八右衛門を敵役として強調しているため,一途ではあるが破滅的な忠兵衛の愛を描く原作焦点はぼけてしまっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「冥途の飛脚」の意味・わかりやすい解説

冥途の飛脚
めいどのひきゃく

浄瑠璃義太夫(じょうるりぎだゆう)節。世話物。三段。近松門左衛門作。1711年(正徳1)大坂・竹本座初演。当時実在した飛脚屋の為替(かわせ)金拐帯事件に基づく「梅川(うめがわ)忠兵衛」の情話を脚色したもの。大坂・淡路町の飛脚問屋亀屋(かめや)の養子忠兵衛は、新町槌屋(つちや)の遊女梅川となじみを重ね金に窮し、友人の丹波屋八右衛門(たんばやはちえもん)に借金50両を融通してもらう。八右衛門は忠兵衛の将来を案じ、新町の揚屋で遊女たちに一件を披露し、廓(くるわ)から彼を遠ざけようとする。しかし、偶然廓に来て立ち聞きした忠兵衛は、かっとなり侍屋敷に届けるべき為替金の封印を切って、50両を八右衛門にたたきつけ、残りの金で梅川を身請けする。忠兵衛は梅川とともに故郷新口村(にのくちむら)へ落ち延び、実父孫右衛門によそながら対面し、裏道から逃げようとしたが途中で捕らえられる。激情型の忠兵衛と可憐(かれん)な遊女梅川との情愛を細やかに描いた名作。改作には浄瑠璃に紀海音(きのかいおん)の『傾城三度笠(けいせいさんどがさ)』、菅(すが)専助らの『けいせい恋飛脚(こいびきゃく)』、歌舞伎(かぶき)に『恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)』などがあり、舞台ではもっぱら改作の「封印切」「新口村」が演じられていたが、最近は近松の文学性尊重の立場から、原作どおりに上演されることも少なくない。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「冥途の飛脚」の意味・わかりやすい解説

冥途の飛脚
めいどのひきゃく

浄瑠璃。世話物。3巻。近松門左衛門作。正徳1 (1711) 年大坂竹本座初演。通称『梅川忠兵衛』『梅忠』。宝永年間 (04~11) に起きた飛脚屋亀屋忠兵衛の為替金横領事件を脚色したもの。近松の世話物の代表作。遊女梅川に入れあげる忠兵衛が,友人八右衛門の意見に逆上して 300両の封を切る「封印切」 (中の巻) ,故郷でよそながら父孫右衛門に会う「新口村」 (下の巻) が有名。歌舞伎では改作『恋飛脚大和往来』が上演され,人形浄瑠璃でも「新口村」は改作『けいせい恋飛脚』の台本によって演じられる。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「冥途の飛脚」の解説

冥途の飛脚
めいどのひきゃく

人形浄瑠璃。世話物。3段。近松門左衛門作。1711年(正徳元)初秋以前に大坂竹本座初演。飛脚宿亀屋の養子忠兵衛が遊女梅川を身請けするため公金を使いこんだ事件を脚色。浮世草子・歌舞伎などに先行作があるが,実説の詳細は不明。改作物に「傾城(けいせい)三度笠」「けいせい恋飛脚」,また歌舞伎化した「恋飛脚大和往来」などがあるが,主人公の性格や,その父親の愛情や義理にからまれた苦悩の描写は,本作には及ばない。

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百科事典マイペディア 「冥途の飛脚」の意味・わかりやすい解説

冥途の飛脚【めいどのひきゃく】

浄瑠璃。近松門左衛門作。1711年初演。俗に《梅川・忠兵衛》とも。実話を脚色したもので,大坂の飛脚屋の養子忠兵衛が新町の遊女梅川となじみ,金に詰まったあげく預り金300両の封印を切るという罪を犯す。歌舞伎ではこれを改作した《恋飛脚大和往来》の上演が多い。

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旺文社日本史事典 三訂版 「冥途の飛脚」の解説

冥途の飛脚
めいどのひきゃく

江戸中期,近松門左衛門作の世話物浄瑠璃
1711年大坂竹本座で初演。3段。大坂の飛脚屋亀屋忠兵衛が新町の遊女梅川への恋のために,為替金を使い込み,駆け落ちしたが捕らえられる。近松59歳の円熟した筆致が珠玉の名編となり,また作品全体がリズム感にあふれ,音曲的要素にも富んでいる。歌舞伎でもとりあげられ,『恋飛脚大和往来』と改題されて上演。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「冥途の飛脚」の解説

冥途の飛脚
めいどのひきゃく

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
近松門左衛門(1代)
初演
文政7.3(江戸・市村座)

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世界大百科事典(旧版)内の冥途の飛脚の言及

【梅川・忠兵衛】より

…浄瑠璃,歌舞伎作品中の主人公名または作品の俗称。飛脚屋亀屋忠兵衛と新町槌屋の遊女梅川を主人公にした近松門左衛門作《冥途の飛脚(めいどのひきやく)》(1711)が原典であるが,〈新口村の場〉は夫婦,親子,嫁しゅうとの愛情が巧みに描かれ,舞踊的要素が多いのでのちに道行浄瑠璃に作られた。常磐津《道行情(みちゆきなさけ)の三度笠》(1841),富本《道行恋飛脚》(1780),清元《道行故郷の陽雨(はるさめ)》はその代表曲である。…

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