改訂新版 世界大百科事典 「折中」の意味・わかりやすい解説
折中 (せっちゅう)
二つの相反する主張,意見,先例,法理などを調和させ,新たな結論を導き出すこと。日本の古代から中世にかけては,折中もしくは折中の法とよばれ,法,政治,行事などの分野で用いられた特色ある論理の一つであった。とくに平安から鎌倉にかけての公家社会では,律令や諸々の行事の先例などと現実社会の間の乖離(かいり)が増大し,しかも名分上は法や先例を否定しえない場合,両者の間になんらかの調和点を見いだす必要に迫られることが多かった。この際しきりに用いられたのが折中の法の名による正当化である。折中という論理がなぜ法的にも社会的にも有効であったかは明らかでないが,二つの相反するもののおのおのに,それぞれ何分かの理と何分かの非が共在しており,両者の中間的に最も理に近い点があるという一種の確信が,日本人の法思想の中に根強く生きつづけていたからではないかと想像されている。
執筆者:笠松 宏至
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報