一般に前近代社会では,人々のあらゆる行為の規範として先例が重視され,それを逸脱した行為に対して法的・社会的制裁が存在した。とくに法や制度と社会の現実との乖離(かいり)が増大した中世では,先例のもつ意味は大きく,史料には〈先例に任せて〉の文字が充満し,多くの故実書がつくられた。たしかに一つの事実が先例として主張されればそれを無視することはできない。しかし忘れてならないのは,ある行為の規範となるべき先例は,多くの場合個人的な探索によって発見されるもので,別の探索ではこれと矛盾する先例が発見される可能性が大きい。つまり整合的な先例が万人共通のものとして存在しているわけではない。たとえば《御成敗式目》のいくつかの条文にみられる〈右大将家(源頼朝)の例〉でも,立法者の主観的判断によって探索され取捨されたものが,単なる歴史的事実を〈右大将家の例〉としてよみがえらせたものであり,それが中世的な理の作用であったといえよう。
執筆者:笠松 宏至
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
前例とも。以前からの慣例,しきたり。古代~中世には無条件で守られるべきものと認識され,先例を破ることは新儀(しんぎ)とよばれて非難の対象となった。権利を保障する文書などでは,「先例に任せ」というかたちで用いられることが多い。鎌倉幕府の基本法である「御成敗式目」は,先例を重視して作成された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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