教員の職階構造(読み)きょういんのしょっかいこうぞう

大学事典 「教員の職階構造」の解説

教員の職階構造
きょういんのしょっかいこうぞう

職階制度とは,職位の上下に基づく組織秩序によって,組織本来の目的を十全に達成しようとするものである。官僚制や会社組織の場合,上司の指示によって業務が遂行され,組織目的が達成されるが,大学組織の場合,その組織目的が教育,研究,社会貢献と広範に及んでいるのみならず,教育や研究という機能そのものが複雑で,指示命令作用だけでは本来的な目的の達成が期待できるものではない。各国においては,それぞれの文脈に合わせて独自の制度が発展を遂げてきた。

[日本]

日本の大学教員の職階として,法的に根拠を持つものは,教授,准教授,講師,助教,助手(日本)の五つである。学校教育法92条において「大学には学長,教授,准教授,助教,助手及び事務職員を置かなければならない」と定められている。現行の体制に定まったのは,2005年(平成17)の中央教育審議会答申「我が国高等教育の将来像」を受けた学校教育法および大学設置基準の改正によってであり,それまでの教授,助教授(日本),助手という伝統的な三層体制から大きな制度変更がなされた。

 大学教員の職種や職制については,研究者養成や後継者養成の観点から,古くは1987年(昭和62)の臨時教育審議会第4次答申において,助手の職務内容,処遇,職名等の検討を求めたところまで遡ることができる。ただ,2005年の制度改正(施行は2007年)実質的かつ重要な目的の一つは,とくに医学部において課題となっていた授業を担当できない助手制度,すなわち大学教員として位置づけられず教育を担当できるための法的根拠がないことから生じる諸問題の解消にあった。そこで,新たな職種としての助教(日本)が設けられたのである。さらに,教育研究活動における助教授の自律性を高めることを眼目として,助教授の「教授を助ける」規定(当時の学校教育法58条)を削除し,これまた新たな職種としての准教授(日本)を設けたのである。

 すなわち学校教育法の旧規定における,助教授は「教授(日本)の職務を助ける」,助手は「教授又は助教授の職務を助ける」との規定を改め,三者はそれぞれ「教授は,専攻分野について,教育上,研究上又は実務上の特に優れた知識,能力及び実績を有する者であつて,学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に従事する」,「准教授は,専攻分野について,教育上,研究上又は実務上の優れた知識,能力及び実績を有する者であつて,学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に従事する」,「助教は,専攻分野について,教育上,研究上又は実務上の知識及び能力を有する者であつて,学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に従事する」とされたのである(学校教育法92条)

 改正前の制度は,第2次世界大戦後長らく続いたもので,大学教員の職階構造という問題にとどまらず,日本の大学教員組織のプロトタイプともいえる講座制と深く結びついていた。19世紀末にドイツの大学に範をとりながら,帝国大学への講座制導入に大きな力を発揮したとされる井上毅の意図は,帝国大学教官の処遇改善と専攻責任の明確化であったとされるが(寺﨑,1992),講座制が教授-助教授-助手という大学教員の階層性を担保するものとなるに及んで,日本の大学教員組織や教員文化に後々まで大きな痕跡を残すものとなったのである。

 大学設置基準の旧規定によれば,「大学は,その教育研究上の目的を達成するため,学科目制又は講座制を設け,これらに必要な教員を置くものとする」(5条),また「講座には,教授,助教授及び助手を置くものとする」(7条)とされていた。講座制は,細分化された専門的学問の担い手を継承していく上で,明治以来有効に機能してきた面があり,教員組織や校費積算の基礎ともなってきたので,その制度的影響は,大学教員の意識に大きな痕跡を残してきたともいえる。現行規定では,「教育研究組織の規模並びに授与する学位の種類及び分野に応じ,必要な教員を置くものとする」とされているだけで(7条),講座制に関する規定は削除されている。また,同条2項において「大学は,教育研究の実施に当たり,教員の適切な役割分担の下で,組織的な連携体制を確保し,教育研究に係る責任の所在が明確になるように教員組織を編制するものとする」とされ,大学の教員組織の構成原理はきわめて柔軟なものとなった。

 なお,大学における職階は教授,准教授,助教,助手に限られるものではない。学校教育法では「大学には,前項のほか,副学長,学部長,講師,技術職員その他必要な職員を置くことができる」と規定されており(92条2項),主幹教授,上級准教授,学務准教授,准助教などの多様な呼称や称号が大学によっては用いられている。
著者: 川島啓二

アメリカ合衆国

アメリカの大学教員の専任教員の職階は,常勤講師(アメリカ)(instructor),助教授(アメリカ)(assistant professor),准教授(アメリカ)(associate professor),教授(アメリカ)(professor あるいはfull professor)を基礎とする。教授をfull professorとも呼称するのは,professorは時とすると,常勤講師から教授までの総称として機能するからで,それと区別して最上位の職階を指すためである。

 19世紀前半まで,カレッジの専任教員は教授で尽くされ,これを卒業したての短い任期のチューター数名が復誦の指導を中心に補助していた。助教授の職位は,1840年代のイェール大学,50年代のハーヴァード大学ミシガン大学で初めて登場した。19世紀末には,上記3校を含む代表的な諸大学では平約70名の教授に対し,二十数名の助教授が在職していた。他方,准教授は平2名で,ミシガンなどは一時准教授に替えて,少壮教授(アメリカ)(junior professor)を置いていた。准教授の職階が定着したのは,20世紀に入ってからである。

 四つの職位を,在職権(tenure),研究業績,学位と関連づけつつ比較する。通常,准教授以上は在職権を得て身分が安定する。では,ともに身分が不安定な常勤講師と助教授は,何を根拠に区別するか。単純な説明は,就職時での博士(アメリカ)学位(Ph.D.)の有無で,何らかの事情で就任までに学位が未取得の場合,常勤講師となる公算が大である。助教授は,将来,准教授ないし教授としての教育研究上の職務遂行能力を持つか試される段階である。こうした助教授への任用では,所属学科(アメリカ)での決定が重きをなす。在職権を得る准教授への昇進(昇任)または任用では,学科の支持に加え,関連分野の教員や学部長等の判断も重視される。

 ともに在職権をもつ准教授(アメリカ)と教授(アメリカ)とを何故区別するか。助教授(アメリカ)から一挙に教授では,試用期間のさらなる延長が生じる恐れがあるので,准教授の職位で安定を図り,なお教育研究業績の向上への圧力をかけ続ける。さらに教授に準じて役職等を果たしうるため,小規模な学科での人事のやりくりの自由度を劇的に高められる。しかし,こうした便利さの故に,准教授への昇進は厳格さを欠き,大学の研究教育水準の低下を招きやすい。そこで,あえて准教授の職位を排し,助教授から教授への昇進時の厳格な審査で質を維持した大学もかつて存在した。今日でも,カリフォルニア大学バークレー校やハーヴァード大学での准教授の割合は10%前後と小さく,優れた教授の確保が昇進によらない構造がうかがえる。他方,中堅かそれ以下の私立・州立大学では,一般に准教授の割合が相対的に高く,中間の職位として機能している。たしかに,そこに潜む水準の停滞も否定できない。

 2011年,アメリカでは高等教育機関の非常勤教員(アメリカ)数が常勤教員数を初めて上回った。adjunct professorあるいはpart-time lecturer等と称されるこれら教員の職位と処遇とが,今後ますます論議を呼ぶことは間違いないであろう。
著者: 立川明

イギリス

イギリスの大学教員では,大学の教職員はその専門性の領域ごとに分類される。教員はアカデミックスタッフ(イギリス)に分類され,通常,教育,研究,管理運営等,大学での学術的な活動すべてに携わる者をいう。しかしながら,1992年にいわゆるポリテクニクが大学に昇格して以降,高等教育機関の役割が多様化したことや,管理運営体制の変革などから,教員の役割,雇用条件や形態も変化してきた。そうした変化の中で,大学教員は,基本的に①教育と研究,②教育重視,③研究重視の3種類のキャリアパス(イギリス)で区分されるようになった。2016年現在,フルタイム教員では①教育と研究の教員が全体の約6割を占める。

 3種類のキャリアパスごとに,その職務の各レベルでのおもな職務内容や活動範囲,必要とされる能力の目安として「全英大学教員職務概要集」(the National Library of Academic Role Profiles: NLARP)がある。この目安は機関による職務の格差を減らし,人事における透明性と移動性を確保するために,大学組合(University and College Union)など関連する諸団体の合意のもとに作成された。各大学はこれを参照しつつ,自大学での職階(職名)や職務規定を作成する。

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 教育と研究をおもな職務とする教員の職階は,職名でいえば講師(イギリス)(lecturer)に始まり,職務内容の要件をもとに実施される毎年の教員評価ごとに(機関によっては専門職能開発の進度によって),レベルに沿って昇進(progression)する。こうした一般的な教員の大半が昇進可能な最高の職階は,上級講師(イギリス)(senior lecturer)である。同じ上級職(senior)であるレベル4以上の准教授(イギリス)(reader; associate professor),教授(イギリス)(professor)へは,本人や所属部局の意向により昇格審査(promotion)を経て昇進する。とくに教授は,従来,職階というよりも称号に近いとされてきた。教授には,国内はもとより国際的な名声を確立した教員が採用され,その割合も全英の教員全体の約1割と少ない。なお同レベルでも,機関により職名や実際の職務内容が異なる場合がある。若手の教育アシスタント(イギリス)や研究アシスタント(イギリス)(機関によりアソシエイト(イギリス)ともいう)は,期限付契約雇用(fixed-term contract)である。
著者: 加藤かおり

フランス

フランスの大学教員には教育研究に従事する多様な者が存在するが,その中核に位置するのは教員=研究員(フランス)(enseignant-chercheur)の地位を有する教授(フランス)(professeur)と准教授(フランス)(maître de conférences)である。かつてはこれらに加えて専任助手(フランス)(assistant titulaire)の職階があったが,1985年にその職団(corps)が廃止されて(政令第85-1083号),それ以降専任助手は新規に採用されていない。

 教員=研究員は,①初期教育,継続教育,個別指導,進路指導,助言,評価を含む教育,②研究,③知識の普及および経済・社会・文化領域における連携,④国際協力,⑤機関の管理運営の五つの職務に従事する(教育法典L. 952-3条1項)。これらに加えて教授は,教育課程の策定,学生の指導,教育実施組織(équipe de formation)の連絡調整において主たる責任を負う(同条3項)。教員=研究員の職務の詳細は,高等教育の教員=研究員の地位に関する政令第84-431号で規定されている。同政令は,2007年の大学自由・責任法(LRU)に基づく政令第2009-460号によって大幅に改正され,学生の就職・進路決定(フランス)(insertion professionnelle)が新たに職務として明記された。

 准教授は公募(フランスの教員)される。それに応じるには,関係する分野の博士号(フランス)を取得し,さらに大学評議会(フランス)(Conseil national des universités: CNU)が行う准教授になるための資格審査に申請し合格しなければならない(教育法典L. 952-6条)。例外として,国外の高等教育機関で同等の地位にある者についても公募対象に含めることが可能である。CNUは,大学教授職の管理を行うために設置された高等教育・研究大臣の諮問機関であり,大臣の諮問を受けて全大学の教員=研究員の資格審査を行うとともに,採用や昇進についての答申を行う。公募を受けて,応募者の審査を担当するのは選考委員会(フランス)(comité de sélection)である。選考委員会は管理運営評議会(フランス)(conseil d'administration,教員=研究員および研究員のみで構成)の決定に基づいて設置され,半数以上の外部者を含む教員=研究員で構成される。教授も,准教授同様に公募によって採用される。CNUの資格の取得,選考委員会の設置等については准教授と同様である。ただし法学,政治学,経済学,経営学については,公募による採用はあるものの,上級教員資格(フランス)(agrégation,アグレガシオン(フランス))の全国試験を通じた採用が原則である。
著者: 大場淳

[ドイツ]

ドイツの大学教員では,大学に勤務する者は大きく次の四つのカテゴリーに分類することができる。(1)本務で学術的・芸術的活動に従事する者,(2)兼務で学術的・芸術的活動に従事する者,(3)本務で非学術的活動に従事する者,(4)兼務で非学術的活動に従事する者である。このうち(1)と(2)が大学教員に相当する。「非学術的活動に従事する者」は事務,技術,その他に分類されている。

 (1)の「本務で学術的・芸術的活動に従事する者」は,次の四つのグループに分類される。①教授(ドイツ),②講師(ドイツ)および助手(ドイツ),③学術協力者(ドイツ)および芸術協力者(ドイツ),④特別任務教員。①はさらにa. 教授(給与表の格付けにしたがい,C4教授,C3教授,C2教授,W3教授,W2教授に分けられる),b. ジュニア・プロフェッサー(ドイツ)(準教授(ドイツ),2005年から),c. 客員教授(ドイツ)(本務)に区分される。なお「C」「W」は官吏公務員に適用される俸給表の種類を示す。従来「C」の俸給表が適用されてきたが,後述するように2005年からジュニア・プロフェッサーの制度が導入されたことにともない,「W」が設けられ,新しい制度で任用される者に適用されている(それ以前に任用された者は,そのまま「C」が適用される。ジュニア・プロフェッサーにはW1が適用される)。②は大学講師(ドイツ),上級助手(ドイツ),上級技術者(ドイツ)(Oberingenieure),学術助手・芸術助手(ドイツ)に分類されている。

 (2)の「兼務で学術的・芸術的活動に従事する者」には,次のような種類がある。①客員教授(兼務),名誉教授(ドイツ)(Emeriti),②教育受託者(ドイツ)(Lehrbeauftragte)。このなかには名誉職教授(ドイツ)(Honorarprofessoren,特定の専門分野について大学で講義する「名誉」を与えられた者),教授,私講師(ドイツ)(Privatdozenten),定員外教授(ドイツ)(außerplanmäßige Professoren)が含まれる。③学術(芸術)補助員(ドイツ)(Hilfskräfte)

 上述の教授になるためには,大学修了後,パートタイムの学術補助員等を務めながら教授の指導のもとで博士号(ドイツ)を取得し,さらに助手あるいは学術協力者等に従事しながら大学教授資格(ドイツ)を付与され,取得することが要件とされてきた。この資格を付与されてはじめて,大学教授になるための要件を充たすことになった。教授人事は基本的に公募により行われ,まずC2教授のポストにつくことになる(C1は助手)。C2の教授ポストは,上級助手,大学講師とも呼ばれ,任期が設けられている。C3,C4の教授は終身である。なお,ドイツの特色として,C2からC3,C3からC4というように一段高いランクに移るためには,大学を変わらなければならないというのが原則とされてきた(同一学内招聘禁止(ドイツ))

 こうした大学教授任用システムに対し,2002年2月の第5次改正大学大綱法(ドイツ)により,2005年から新たに若手研究者のためのジュニア・プロフェッサー(ドイツ)(準教授)の制度が設けられることになった。従来の制度では大学教授資格の取得まで年数がかかり,研究者の自立が遅いなどの問題点が指摘されてきたのを受けて,ジュニア・プロフェッサーという職階を設けることにより,30歳代前半で独立した研究者を輩出することが目指されている。ジュニア・プロフェッサーに採用されるためには,博士号取得後,取得大学とは別の大学に異動するか,すでに他大学で2年以上勤務していることが条件となっている。またジュニア・プロフェッサーには任期(3年)も設けられている。この新たな制度では,教授は基本的にジュニア・プロフェッサーを経験した者のなかから選考されることとなった。ただし従来の大学教授資格の取得後,教授に就任するコースも併存している。また,大学大綱法から大学教授資格の取得を必須とする条項が削除され,実績を有する大学外の人材を教授に任用する道も開かれている。
著者: 木戸裕

[イタリア]

イタリアの大学教員の基本的な職階は正教授(イタリア)(第1級教授(イタリア)),准教授(イタリア)(第2級教授(イタリア)),研究員(イタリア)からなる。この3段階の職階は,研究員から正教授への「飛び級」もないことはないが,基本的に各段階を昇っていくものとされる。ただし,本質的に日本のような「昇任」という考え方はなく,各段階ごとの任用試験に合格することで段階を昇る。この任用試験をコンコルソ(イタリア)(concorso,コンクール(イタリア))と称する。

 以前は,大学教員の任用は国家コンコルソ(イタリア)によって決定されていた。この国家コンコルソは,唯一の国家コンコルソ委員会(イタリア)によって2年ごとに学術・教科分野に応じた募集の公布が行われ,57歳以下の者が応募できるというものであった。しかし,この旧来の任用システムは十全に機能しなかったため,1998年に重要な改革(210法)が行われた。各大学に生じた教員の空席を埋める権限と教員の任命権が各大学に委譲されたのである。教員に空席が生じた大学は自らコンコルソを布告し,志願者を招集して適任者を決定することができるようになった。

 しかし,この大学ごとのコンコルソは,逆に任用の地方化という新たな問題を生んだ。イタリア社会に特徴的なネポティズモ(身内びいき)がそれに拍車をかけたようである。正教授のコンコルソの最終勝利者や「適格者(イタリアの大学教員)」(選考で資格ありと認められた者)の中では,すでに約90%が同じ大学で准教授のような職に就いている教師であったし,准教授の場合には,4分の3がすでにその大学で,あるいは「適格者」とされた大学で研究員職に就いている者であったのである。このような地方化を排除するために,再びコンコルソの国家化ともいうべき改革が,2005年(230法)に行われようとした。すなわち,かつてのような志願者の比較評価を定める国家コンコルソ委員会を設置して,この委員会が「適格者」のリストを作り,そのリストから各大学が採用するというものであった。また研究員に関しては,2013年までは非常勤研究員(イタリア)のためのコンコルソを継続するが,それ以後は4年間(さらに4年間延長可能)の定時契約研究員(イタリア)のみ残すこととした。したがって,正規職員になっていない研究員は8年間の間に,正規の研究員か准教授のコンコルソに勝ち残らない限り,大学で生きていくことはできないというものであった。

 これをうけて,2008年から2011年まで文部科学大臣職にあったジェルミーニによって,改革が進められた。教員任用における大学自治の後退や若手教員確保の不透明性のために,各大学の反対も大きく,この法律は十分に実施されないまま,2009年(1法)に見直しがなされた。それによると,各大学のコンコルソ委員会のメンバー構成は,研究員のコンコルソでは,ポストを公布した学部によって任命された1名の正教授ないし准教授と,公布対象学問分野に属する教授から選ばれた委員リストの中からくじで選ばれた2名の正教授によって,正・准教授のコンコルソでは,ポストを公布した学部によって任命された1名の正教授と,当該学問部門に属する正教授の中から選ばれた委員リストからくじで選ばれた4名の正教授によって構成されることになった。これは,教員任用の地方化を避ける目的で始まった改革であったが,委員に選ばれる人員が専門分野の限られた人員である上に,正教授主体の委員構成は,選出の公正さなどを妨げる危険性が依然として指摘されていた。

 また,この改革では,正規職員の人件費が基本財源の9割を超える大学については,コンコルソの布告もできず,新規採用もできないと定め,さらに2011年までの3年間は,退職正規教員に必要であった財源の5割の範囲内でのみ,新規教員の採用を認めた。これは,教員数を削減しないとすれば,若手の研究員や准教授の採用を増やす道しか大学に残されていないことを意味した。ただ,全体としてみれば,国家コンコルソによって選出された「適格者」の中から,各大学コンコルソ(イタリア)のコンコルソによって最終的な選出が行われる手順を明確化するとともに,若手の正規教員を増加させる施策であったと考えられ,一種の折衷的な改革の方向性を示すものであったと言えるだろう。

 この一連の流れを踏まえて,2010年に大学全体のシステムが大きく改革されることとなった。この現在進行中の改革を定めた法律(240法(イタリア))は,教員の資格と任用に関しても大きな変革をもたらすものである。まず,基本的な国家コンコルソと大学コンコルソの共存は,それ以前の改革を受け継いでいるが,国家コンコルソで資格付与するという方向が明確化された。そのため,国家コンコルソに合格した者に大学教授資格(イタリア)を意味する「アビリタツィオーネ(イタリア)abilitazione」の資格が付与されることとなる。これは,コンクール方式を採っていたフランスが「アビリタシオン(フランス)」を導入して,ドイツ型の大学教授資格方式に転換したことの影響と考えられる。

 その手順は,2005年の改革を踏まえて,第1段階としてそれぞれの専門分野ごとの国家コンコルソが公布され,そのための国家委員会によって,論文などの業績に基づいて選考がなされる。応募者の資格は明記されていないが,現状では研究ドクター学位(イタリア)の取得者でないと合格は困難とみられる。正教授(イタリア)については准教授よりも厳しい基準が適用される。合格者はアビリタツィオーネ資格者としてリストに順序を付けて掲載される。第2段階は各大学による選抜で,各大学は必要な分野の人員をリストの中から選んで,大学ごとのコンコルソによって任用を決定する。また,一度アビリタツィオーネを取得した准教授(イタリア)は各大学でおこなわれる正教授のコンコルソに応募できることになっている。

 もっとも数多い研究員(イタリア)については,従来30代から40代にかけて正規研究員(イタリア)になるという比較的高年齢層が多く,その処遇が問題となってきた。2009年の段階でも,正規研究員職を廃止して,3年契約の研究員職のみ残す方針であったものを,ジェルミーニ改革(イタリア)では,正規研究員を「professore aggregato」として研究・教育に従事することができるように改革した。これには,1980年に研究員制度ができる前から存在し廃止されるものとされていた助手(イタリア)や,最低3年以上教育に従事した技官,非常勤講師なども含まれる。これはフランスのアグレジェの制度の影響とも考えられるが,廃止の方向である研究員職に対する緊急避難的な制度化の色彩が強い。また3年契約の研究員については,2年任期で契約更新が可能なジュニア(イタリアの研究員)(juniorあるいはRTDa)とアビリタツィオーネを持っていれば契約更新しないが優先的に准教授になりうるシニア(イタリアの研究員)(siniorあるいはRTDb)がある。このような新しい職階が恒常的に定着するかどうかは,今後の推移を見極める必要がある。
著者: 児玉善仁+山辺規子

[日本]◎山野井敦徳編『日本の大学教授市場』玉川大学出版部,2007.

参考文献: 羽田貴史編著『もっと知りたい大学教員の仕事』ナカニシヤ出版,2015.

参考文献: 寺﨑昌男『プロムナード東京大学史』東京大学出版会,1992.

[アメリカ合衆国]◎有本章編著『変貌する世界の大学教授職』玉川大学出版局,2011.

[イギリス]◎加藤かおり「イギリスにおける大学教授職の資格制度」,東北大学高等教育開発推進センター『諸外国の大学教授職の資格制度に関する実態調査報告書』(文部科学省先導的大学改革推進委託事業),2011.

[フランス]◎大場淳「フランスの大学教授職―身分・地位,職務,資格,養成等を巡って」,前掲『諸外国の大学教授職の資格制度に関する実態調査』.

[ドイツ]◎木戸裕「ドイツにおける大学教授職の資格制度」,前掲『諸外国の大学教授職の資格制度に関する実態調査』.

[イタリア]◎Alessandro Bellavista, Il reclutamento dei professori e dei ricercatori universitari dopo la legge “Gelmini”, Newsletter Roars review, 2002. :http://www. roars. it/online/il-reclutamento-dei-professori-e-dei-ricercatori-universitari-dopo-la-legge-gelmini/

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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