医学部(読み)いがくぶ

大学事典 「医学部」の解説

医学部
いがくぶ

医学に関する教育,研究,および社会的活動を行っている学部で,附属病院を併設している。

[歴史]

大学内部でカリキュラム権,学位授与権等の自治団体性をもつ医学部が成立したのは中世後期ヨーロッパにおいてのことであり,神学部,法学部とともに最も起源の古い専門職養成学部である。

 日本では,明治新政府の西洋医学採用の決定を受けて東京に医学校兼病院(日本)が設立されたが,1877年(明治10)東京大学が創設された際に組み込まれて医学部となった。1886年公布の帝国大学令においては,大学から学部という名称は消え,専門分野ごとの分科大学の一つとして医科大学(日本)が設けられており,1919年(大正8)施行の大学令以降に医学部という名称が復活する。この間,医学部という名称は高等中学校または旧制高等学校の医学教育部門において使用されていた。第2次世界大戦前には東京,京都,東北,九州,北海道,大阪,名古屋の7帝国大学,さらには京城,台北の2帝国大学の医学部と,私立慶應義塾大学の医学部が存在し,戦時中の1943年(昭和18)に日本大学医学部が誕生している。戦後の1947年に施行された学校教育法では,大学に学部を設けるように規定されており,医科大学や医学専門学校等から組織替えした新制大学に医学部が設けられた。

 2017年(平成29)現在,日本には82の医学部・医学類・医科大学がある。これらは1970年以降に設立された36校と,それ以前に設立された46校とに大きく区分される。医学部には医学科,看護学科,栄養学科,生命科学科等が含まれていることがあり,このうち医学科(日本)は医師養成コースであり,卒業後に医師国家試験への受験資格が与えられるが,筑波大学金沢大学では医学類(日本)と称しており,防衛医科大学は防衛省設置の準大学である。1982年以降,医学部医学科定員の抑制政策がとられてきたが,地域や診療科における医師の偏在などの問題の解決に向けて2008年から定員増政策に転じ,2016年以降,東北医科薬科大学と国際医療福祉大学に医学部が設置された。

[社会的機能・役割

国,時代により医学部の担う社会的機能は異なっている。16世紀スイスバーゼル大学(スイス)のように都市の医療専門職集団へ加入するための資格認定機関,20世紀前半日本の帝国大学(日本)のように卒業がすなわち医師開業の国家資格認定となる機関,あるいはフランスのパリ大学医学部(フランス)のように国の医療技術評価認定機関として機能した場合もある。2017年現在,日本の大学の医学部は医学生の教育ばかりでなく,看護師,放射線技師等のコ・メディカルの教育も行い,先進医療の研究や難治性疾患の診療という社会的機能を担っている附属病院を併設しており,地域の中核病院,医師の卒後研修の場としての役割も期待されている。

[位置づけ]

アメリカ合衆国のように医学専門課程の教育のみを受けるために入学するメディカル・スクール型(アメリカ)Medical School型(アメリカ)と,日本のように他学部と同様,高校卒業後18歳から入学して6年間で一般教育と医学専門課程を履修する大学医学部型(日本)Medical Faculty型(日本)がある。2023年以降にアメリカ合衆国で臨床研修を行うには,一定の基準に合致した医学教育カリキュラムを備えた医学校の卒業生である必要があるというECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduate)からの通告を受け,日本の大学医学部では臨床実習時間の増加,学生参加型教育などへの改革の動きが活発である。

[単線型・複線型]

医療に関する国家資格認定制度が単線型をとるか複線型をとるかによって,医学部の教育システムも異なっている。単線型とは,いわゆる近代医学のみを唯一の医学と考える立場であり,複線型とは,伝統医学と近代医学をともに医学と考える立場である。たとえばインドや中国では複線型をとっており,伝統医学を主として学ぶ医学部と近代医学を主として学ぶ医学部が存在する。日本では明治維新以降,単線型をとってきたが,2007年以降,漢方医学の教育を一定時間カリキュラムに含ませることが義務づけられた。またアメリカ合衆国やドイツなどでは,自然療法やホメオパシーなど,近代医学以外の代替医療を学ぶカリキュラムも医学部内部に設定されている。
著者: 月澤美代子

参考文献: Hilde de Ridder-Symoens ed., A History of the University in Europe: Volume 1, Universities in the Middle Ages. Cambridge University Press, 1991.

参考文献: 小川鼎三他編『東京大学医学部百年史』東京大学出版会,1967.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android