初等教育、中等教育の学校教育を中核とする普通教育の基礎の上に位置づけられた、さらに精深な一般教養教育と高度な学問研究ならびに専門職業に必要な知識・技能を授ける教育。欧米ではhigher educationと称する。1960年代以後、教育の機会均等化と民主化の要求および生涯教育やリカレント教育の進展とともに、高等教育は、従来の少数エリート中心の教育からしだいに大衆化、普遍化への過程をたどり、高等教育機関およびその教育内容の多様化をもたらした。ことに中等教育段階以後の成人教育を中心とする継続教育とともに、高等教育は、中等後教育post-secondary educationの一翼を担い、学位・称号および各種の資格証を授与する独特の機能を有する。また第二段階の中等教育に接続する第三段階教育tertiary educationの主要な柱ともなっている。
[金子忠史・江原武一]
上代の大学寮、中世の寺院、江戸時代の昌平黌(しょうへいこう)や藩校(はんこう)などもそれぞれの時代の最高の学術的な教育機関であり、官吏や僧侶(そうりょ)などを養成してきた点で、日本の高等教育機関の源流とみなすことができる。これらの機関を母体としながら、近代的な意味における高等教育は、明治維新以後、整備発展した。1877年(明治10)法・文・理・医の4学部構成の東京大学が、従来の諸学校を吸収合併して創設された。1886年の帝国大学令で帝国大学と改称され、法・文・理・医・工の分科大学と大学院を有する総合大学となった。以後、明治後期から大正・昭和期にかけて、帝国大学、私立大学、単科大学、旧制高等学校、大学予科、旧制専門学校、高等師範学校の諸類型が発展し、旧制の高等教育制度が確立した。
第二次世界大戦後、1947年(昭和22)制定の学校教育法によって、六・三・三・四の学校体系ならびに新制大学が発足し、旧制の高等教育機関はほとんど新制大学に昇格再編成された。1950年には2年制の短期大学、私立大学に新制大学院が発足し、1953年から国・公立大学にも大学院が設置された。1962年と1967年には、それぞれ工業と商船の高等専門学校が新設され、修業年限を5年および5年半とし、高等学校段階の普通教育と職業専門教育を施している。また、1985年から放送大学が授業を開講している。1975年より認定された専修学校、およびその他の各種学校、諸省庁管轄の大学校は、単一目的の職業教育機関として継続教育機関に分類される。
1987年(昭和62)、高等教育のあり方に関する審議を行う機関として、大学審議会(大学審)が設置された。1991年(平成3)の大学審による大学設置基準改正では、従来の学部・学科、教育課程(カリキュラム)などの規制が大幅に緩和され、大学院設置基準改正では、大学院大学(独立大学院)、連合大学院、連携大学院など新形態の大学院が発足した。また、1999年の大学審の答申は、大学院入学者選抜方法の改善とともに入学資格の弾力化を図り、社会人に大学院の門戸を広く開放することを求めている。
大学審は中央省庁等改革の一環として、2001年(平成13)に中央教育審議会の大学分科会として再編されたが、中央教育審議会はその後、高等教育改革に関する数多くの答申や報告などを公表した。代表的な答申は「我が国の高等教育の将来像」(2005年)、「新時代の大学院教育―国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて―」(2005年)、「学士課程教育の構築に向けて」(2008年)などである。
[金子忠史・江原武一]
日本の現行の高等教育は、大衆化とともに多様化の一途をたどり、数種類の類型の教育機関からなる多元的な制度となった。同様に多元的な制度をとっているアメリカは、2年制の短期大学であるジュニア・カレッジ、コミュニティ・カレッジ、4年制のカレッジ、各種の専門職業大学、大学院および放送大学、非伝統的な大学、営利大学(株式会社立大学)など4352校(2007-2008年度)に及ぶ機関をもつ。それに対し、フランスおよびドイツでは、学位授与権をもつ伝統的な大学と、それをもたない新しいタイプの非大学部門の二元制が採用されている。スウェーデンおよびイギリスでは、さらにその一元化を図り、大衆化を進めている。
同年齢人口に占める高等教育への進学率をみると、日本は56.2%(該当年齢18歳。大学学部・短期大学本科入学者、および高等専門学校第4学年在学者。2008年)、アメリカ53.2%(同18歳。フルタイム進学者のみ。2005年)、フランス約41%(同18歳。国立大学、リセ付設のグランゼコール準備級などの高等教育機関入学者)、ドイツ23.4%(同19歳。大学進学者)、イギリス59.2%(同18歳。フルタイム進学者のみ)となっている。また、同年齢人口に占める高等教育の在学率は、日本は52.0%(該当年齢18~21歳。2008年)を占め、アメリカ57.1%(同18~21歳。2005年)、フランス56.2%(同18~22歳)、ドイツ36.6%(同19~22歳)、イギリス52.4%(同18~20歳)となっている(日本とアメリカ以外はすべて2006年の数値)。
[金子忠史・江原武一]
『中村尚美編『近代高等教育の成立――日本と欧米』(1991・早稲田大学社会科学研究所)』▽『クラーク・カー著、喜多村和之監訳『アメリカ高等教育の歴史と未来――21世紀への展望』(1998・玉川大学出版部)』▽『大久保利謙著『日本の大学』オンデマンド版(2008・玉川大学出版部)』▽『江原武一著『転換期日本の大学改革――アメリカとの比較』(2010・東信堂)』▽『文部科学省編『教育指標の国際比較』(各年版・国立印刷局、平成20年版以降は文部科学省ホームページにてPDF形式のファイルで提供)』▽『潮木守一著『世界の大学危機――新しい大学像を求めて』(中央公論新社)』
一般的には学校教育制度上の体系として,初等教育および中等教育のうえに位置づけられる教育をいう。しかし,高等教育の範囲や性格は国や時代によって異なり変化している。高等教育の中心は大学であるが,元来ヨーロッパ中世の大学をモデルとした欧米の大学,さらに戦前日本の帝国大学も時代とともに大衆化され民主化されてきた。それに応じて大学の使命である学問の創造と高度な教育のあり方が問われ,高等教育改革上の最大の課題となり今日に至っている。一方では大学の大衆化現象に応じて高等教育を〈中等後教育post secondary education〉あるいは〈第3段階教育tertiary education〉と呼びかえる傾向が一般化しているのに対し,他方で大学院大学のあり方が問題とされているのは,そのためであるといってよい。日本でも大学を中心とした高等教育の大衆化は,1918年の臨時教育会議の答申以来すでに問題とされ,第2次大戦後は戦前の旧制大学,高等専門学校および師範学校等を母体とした新制大学が発足した。そして今日ではいわゆる大学(短大,学部,大学院)のみでなく高等専門学校,大学通信教育,国立養護教諭養成所,専修学校の一部も高等教育機関とみなされ,さらに最近では社会人の大学入学や放送大学の実施,市町村自治体による学園構想の動きなども活発化している。つまり,一方で大学の国民化ないし国民教育制度化が急速に進行しつつあるだけに,伝統的な高等教育の理念や概念の再検討が今日の日本でも学制改革上の重点課題となっているのである。
→大学
執筆者:小川 利夫
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