日本大百科全書(ニッポニカ) 「新興株式市場」の意味・わかりやすい解説
新興株式市場
しんこうかぶしきしじょう
成長性のあるベンチャー企業などに資金調達の場を提供する目的でつくられた株式取引所。東京証券取引所やニューヨーク証券取引所などの通常の株式取引所に比べ、時価総額や株主数などの上場基準が緩く、創業間もない企業の成長を支援する役割を担う。また、業績が赤字でも上場できる取引所もあり、起業後すぐには黒字化しにくい医薬・バイオなどの業種にも資金調達の機会を提供している。上場後、事業規模が大きくなると、新興株式市場から通常の取引所へ上場の場を移す企業が多いため、大企業へ成長していくための登竜門的な位置づけになっている。世界的には、2000年前後のIT企業を中心とした新規株式公開(IPO)ブーム、2005~2007年の第二次IPOブーム、2019~2021年のスタートアップ・ブーム時に、新興株式市場への上場や取引が活発になった。日本では、1990年代末から全国の証券取引所が新興株式市場を次々に開設し、ベンチャー企業の上場ブームが起こったが、2006年(平成18)、新興株式市場の一つ、東証マザーズ(現、東証グロース)に上場していたライブドアによる証券取引法違反事件が起き、さらに上場企業の不正会計や暴力団関与問題が相次いで発覚したことで、新興株式市場の取引は冷え込んだ。
2023年(令和5)3月末時点で、日本にある新興株式市場は、東京証券取引所のグロース(上場企業数523)、名古屋証券取引所のネクスト(同16社)、札幌証券取引所のアンビシャス(同10社)、福岡証券取引所のQ-Board(ボード)(同18社)の四つである。アメリカには、アップル、アマゾン、メタ(旧、フェイスブック)、テスラなどが上場する世界最大の新興株式市場NASDAQ(ナスダック)があり、上場企業は5000社を超える。アジアでも経済成長を背景に新興株式市場が相次いで整備されている。韓国には1996年創設のKOSDAQ(コスダック)(上場企業1549社、2023年4月時点)があり、シンガポール証券取引所は2007年に新興株式市場Catalist(カタリスト)(同315社)を整備した。米中対立のあおりで、アメリカに依存しない市場育成を急ぐ中国では、深圳(しんせん)証券取引所に2009年に創業板(同1250社)、上海証券取引所に2019年に科創板(同513社)という新興株式市場を開設し、電動車用電池で世界最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)などが上場している。
[矢野 武 2023年6月19日]