日本大百科全書(ニッポニカ) 「不正会計」の意味・わかりやすい解説
不正会計
ふせいかいけい
accounting fraud
意図的に財務諸表が適正に作成されないこと。明確な定義はないが、一般的には、従業員や管理者が利益を過大計上したり損失を隠蔽(いんぺい)する場合によることが多い。これと似たことばに「不適切会計」があるが、これは、「意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる誤り」と定義される(日本公認会計士協会「監査・保証実務委員会研究報告第25号」)。したがって、不適切会計はそれが意図的か否かにかかわらないが、不正会計は、一般に意図的な場合をさす。
なお、会計上「不正」の意味は、財務諸表の意図的な虚偽の表示であって、不当または違法な利益を得るために他人を欺く行為を含む。また、誤り、すなわち「誤謬(ごびゅう)」は、意図的でない虚偽の表示であって、金額または開示の脱漏を含み、財務諸表上の基礎となるデータの収集や処理上の誤り、事実の見落としや誤解による会計上の見積りの誤り、会計基準の適用の誤りをいう(日本公認会計士協会「監査基準委員会報告書第35号」)。また、別に「粉飾決算」があるが、これは、会社の損益状況や財政状態を実際よりよくみせようとする意図的な行為で、経営者などによって行われる。
多発する不正会計に対応するため、2013年(平成25)3月金融庁企業会計審議会は、「監査における不正リスク対応基準」を制定した。この基準は、(1)職業的懐疑心の強調、(2)不正リスクに対応した監査の実施、(3)不正リスクに対応した監査事務所の品質管理、の三つから構成されている。そして、まず監査人は、経営者の誠実性に関する監査人の過去の経験にかかわらず、不正リスクにつねに留意し、監査の全過程を通じて、職業的懐疑心を保持しなければならない、とする。職業的懐疑心とは、会計専門家として、公正性を堅持し、十分な注意と忍耐をもって監査人としての専門業務に取り組むことをいう。次に、監査人は、不正リスクを適切に評価するため、企業が属する産業を取り巻く環境を理解するため、これまでの不正事例や不正に利用される産業特有の取引慣行などを理解して、不正リスクに応じた全般的かつ個別の監査手続を実施しなければならない、とする。そして、監査事務所の対応についても規定している。すなわち、監査事務所は、不正リスクに留意した監査の品質管理に努め、不正に関する教育・訓練なども実施する必要がある、とする。
[中村義人 2022年11月17日]
『松澤綜合会計事務所編著『実務事例 会計不正と粉飾決算の発見と調査』(2017・日本加除出版)』▽『吉見宏編著『会計不正事例と監査』(2018・同文舘出版)』