知恵蔵 「日韓合意」の解説
日韓合意
日本の岸田文雄外務大臣は、慰安婦問題を「当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」と位置付け、日本軍の関与があったことを認めた。これに「日本政府は責任を痛感している」と続け、「安倍晋三首相が日本国首相として心からおわびと反省の気持ちを表明する」と述べた。元慰安婦への具体的な支援については、韓国政府が設立する財団に日本政府の予算で10億円を一括供出することを表明し、「名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行う」と約束した。
韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外務大臣はこうした日本政府の措置を評価した上、日本が撤去を求めている在韓国日本大使館前の慰安婦少女像についても、「関連団体との協議等を通じて解決に努力する」と表明した。また両外務大臣それぞれ、今後、国連など国際社会で、本問題について互いに非難、批判することを自制すると述べた。
ただし、韓国側が求めていた日本政府の「法的責任」を明らかにした文言はなく、会見後の国会(16年1月)でも、安倍晋三首相が従来の「法的には解決済み」という政府見解に変更はないと強調している。こうした点に韓国メディアからの批判はあるものの、両国の主要紙や経済界からはおおむね評価する声が多く、欧米メディアも米国の意向が反映された結果として歓迎している。しかし、韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)など元慰安婦の支援団体からは「被害者無視の屈辱外交」という厳しい批判の声が上がり、また慰安婦少女像の撤去にも韓国国民の6~7割が反対している(合意直後の各種世論調査)ため、今後、朴槿恵(パク・クネ)政権には並々ならぬ覚悟が求められる。
(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報