改訂新版 世界大百科事典 「昇給制度」の意味・わかりやすい解説
昇給制度 (しょうきゅうせいど)
昇進や給与引上げ(俗にベースアップという)に伴って給与を増やす制度を指すこともあるが,専門用語ではこれと区別し,厳格に〈基本給部分について一定の基準で個人ごとに給与差がつくように加算する制度〉をいう。ここにいう一定の基準とは,過去のある期間(過去1ヵ年とする場合が多い)の出勤率や,技能・熟練度・必要知識・能力発揮度などを査定するために企業ごとに異なった考え方で作られる昇給率の設定法を指す。昇給制度があるために職種は変わらないのに毎年のように給与が増えるのは日本的特性であるが,昇給のうち勤務成績などに関係なく給与が増える部分を自動昇給(または最低保障としての生活昇給)と呼び,これに加算される分を査定昇給という。昇給率は企業・職務内容により差があり,時代により変わっていくが,長期的には査定昇給の割合を増やしながら平均昇給率を減らす傾向がある。また全従業員に対していっせいに一定期に行う〈定期昇給(定昇)〉,功労など特別に個人に行う〈特別昇給〉という分け方がある。
昇給制度の機能は三つある。(1)給与の調整機能で,設備・技術・企業の活動内容が変わり,従業員の仕事も難易度や繁忙度が変わるのに応じ,給与の格差を変えねばならず,これを昇給分に反映させ,従業員の不安を小さくする。(2)従業員の生活保障機能で,最低の自動昇給のみで年齢に応じた最低生計費を保障すれば,従業員の生活設計を容易にし,企業への定着性と職業への愛着心を高めることができる。(3)労働意欲の刺激機能で,従業員の能力・個人業績・勤務態度などが昇給差となって公正な処遇をうけることになると,従業員の進歩と努力への意欲を高めることになる。女子労働者・中途採用者などは生計費の差や習熟度の差を理由として昇給が低くなる傾向があり,これが給与の不当な差別に導きやすい。労働基準法は昇給を労働契約時と就業規則に明示することを定めている。
執筆者:孫田 良平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報