日本大百科全書(ニッポニカ) 「時そば」の意味・わかりやすい解説
時そば
ときそば
落語。明治中期、3代目柳家小さんが上方(かみがた)落語の『時うどん』を東京へ移した。往来を流して売っていた夜鷹(よたか)そば屋を呼び止めた男が、やたらにそば屋を褒めたあげく、代金を聞くと16文だという。そこで「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、何刻(なんどき)だい」「九(ここの)つで」「十(とお)、十一、十二、十三、十四、十五、十六」と、うまく1文ごまかしてしまった。これを見ていたぼおっとした男が、さっそくまねをしようと、細かい銭(ぜに)を用意してそば屋を呼び止め、褒めようとしたが、まずくて汚なく褒めようがない。勘定になって「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、何刻だい」「へえ四つで」「五つ、六つ、七つ、八つ……」と損をしてしまう。原話は『軽口初笑(かるくちはつわらい)』(1726)、『坐笑産(ざしょうみやげ)』(1773)、『富久喜多留(ふくきたる)』(1782)などにある。3代小さん以後、7代三笑亭可楽(からく)、3代桂三木助(かつらみきすけ)らが得意としたが、いまでも演(や)り手は多い。
[関山和夫]