改訂新版 世界大百科事典 「曾我綉俠御所染」の意味・わかりやすい解説
曾我綉俠御所染 (そがもようたてしのごしょぞめ)
歌舞伎狂言。時代世話物。6幕。河竹黙阿弥作。通称《御所五郎蔵(ごしよのごろぞう)》。1864年(元治1)2月江戸市村座初演。配役は五郎蔵・百合の方を4世市川小団次,さつき(皐月)を2世尾上菊次郎,土右衛門を3世関三十郎,時鳥(ほととぎす)を4世市村家橘(のちの5世尾上菊五郎),巴之丞を2世中村福助,逢州を6世坂東三津五郎。奥州の大名浅間巴之丞が都在番中,愛妾時鳥は後室百合の方に憎まれ悪瘡(あくそう)を発する毒を盛られたうえ惨殺される。時鳥の亡霊は都五条坂の廓に遊ぶ巴之丞の前に現れ,傾城逢州と姉妹の名のりをしてかき消えた。逢州を深く寵愛する巴之丞は廓通いが足しげくなる。御所五郎蔵は浅間の旧臣で腰元さつきとの不義から主家を追われ,今は俠客となって男を売り,女房さつきは逢州と同じ廓に身を沈めている。さつきに恋慕する星影土右衛門も浅間の旧臣で五条坂で五郎蔵と出会い激しく対立する。巴之丞が遊興費の滞(とどこお)りに難渋するのを知り五郎蔵は金策に苦慮するができず,さつきはわざと土右衛門の身請け話に乗り夫に愛想づかしを言い,金を渡そうとする。しかし真情を知らぬ五郎蔵はいちずに裏切られたと思い,さつきを待ち伏せ誤って逢州を殺してしまう。五郎蔵宅でさつきは因果を語りともに自害する。柳亭種彦の読本《浅間嶽面影草紙》に拠った作(浅間物)。初演時には,二幕目雪中に重宝を争う岩木山だんまり,三幕目時鳥殺し,大詰五郎蔵が切腹してから尺八を吹き,さつきが胡弓をとって合奏しつつ死んでいく場などが好評だったというが,近年では怪異趣味に満ちた前半の時代狂言は省かれ,五幕目五条坂出会い,縁切,逢州殺しの3場だけ上演される例が多い。とくに五郎蔵と土右衛門が子分たちと揃いの伊達衣装で両花道に並び,七五調の渡りぜりふを聞かせる五条坂出会いの場は華麗な均整美にあふれ,縁切場の小団次以来練り上げられた演出とともに,江戸吉原情調に男達(おとこだて)の意気と悲しみを盛り上げてすぐれた世話狂言になっている。
執筆者:青木 繁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報