文芸用語。主として歌論,詩論に用いられる語で,五七調とならんで,日本の詩歌における音数律の主たる一形式である。7音節とそれに続く5音節とが1単位となったものをいう。〈……今は野山し 近ければ 春は霞に たなびかれ 夏はうつせみ なき暮らし 秋は時雨に 袖を貸し 冬は霜にぞ 責めらるる ……〉。これは《古今和歌集》巻十九に収められた長歌の一部であるが,このように7・5/7・5/……と続くものを七五調と呼ぶ。一般的に,五七調が重厚なのに比べて,軽快,優美とされている。時代的に見るとき,古くは五七調が優勢であった。《万葉集》の長歌は5・7/5・7/……と続くのが原則だし,短歌も5・7/5・7/7と切れる2句,4句切れが主流をなしていた。それが次第に七五調にとって代わられるのである。まず,奈良朝期に,5/7・5/7・7と,初句,3句で切れる短歌が増えはじめる。平安期に入ると長歌も実質的には七五調をとりはじめ,神楽,催馬楽(さいばら),さらには今様(いまよう)形式が隆盛するに至って,七五調の優勢は決定的となった。以降,七五調は詩歌のみにとどまらず,《平家物語》などの軍記物,謡曲の詞章,歌舞伎のせりふなども七五調を基本としているのを見てもわかるように,きわめて広範囲に日本語表現の韻律面を支配してきたのであった。浪曲,民謡,歌謡曲なども,七五調を基本としてきたと見てさしつかえない。また,忘れてならないことは,七五調の出現・隆盛が連歌の発生を呼び,さらには俳句の誕生をうながした点である。短歌を5・7・5/7・7と上句と下句に分けるとらえ方の背景をなしたのは七五調の韻律感であったと見なされるからである。5/7・5/7・7と続く中で,ことさら第2句と3句である7・5の密着度が強く意識されることによって,上句と下句という分け方が一般化されるようになったと見られる。俳句誕生の背景には七五調の隆盛があったのである。
さて,明治以降も基本的には七五調時代が続いている,と見てさしつかえないようである。まず,新体詩が七五調を基本とした。以降の近代詩,現代詩の歴史は,七五調との対決の歴史,七五調からの離陸の歴史と見てよいように思う。歌曲,流行歌はもとより,標語,広告コピーなども,七五調が基本をなしてきた。今日でも,《万葉集》の長歌を読む場合,五七調で読むべきところをいつのまにか七五調のリズムで読んでしまうということがある。われわれが七五調の時代を生きていることの例証と見ていい。ただし,外国語の大幅な流入,翻訳文体の普遍化等,日本語そのものの状況が激変しつつある今日,七五調も,むろん五七調も,従来ほどの力を持ちえなくなっているのも,一方で事実と見なさなければならないであろう。
→韻律
執筆者:佐佐木 幸綱
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
日本の古典詩歌および韻文の韻律(調子)の名称で、五七調とともに、その基本をなすもの。一般的に日本古典韻文は5拍の句と7拍の句を基本単位にしており、その組合せにおいて「七五/七五/七五/……」の続き方をするものを七五調とよぶ。「いろはにほへと ちりぬるを/わかよたれそ つねならむ/……」といった調子がそれで、短歌では「天(あま)つ風/雲のかよひ路 吹きとぢよ/をとめの姿 しばしとどめむ」(『百人一首』、僧正遍昭(へんじょう))のように「五(/)七五/七七」の調子をいう。奈良朝末から五七調を圧倒し、平安朝・中世・近世を通して、和歌はもとより、各種の歌謡、『平家物語』『太平記』などの軍記、さらには謡曲、浄瑠璃(じょうるり)の詞章、歌舞伎(かぶき)の台詞(せりふ)など、きわめて広く七五調が用いられた。五七調が重厚荘重な調子であるのに比べて、七五調は軽快優美な調子で、平安朝以降の時代的欲求に合致したためだろうとされる。
近代に入っても、新体詩は七五調を主流としたし、唱歌の類にも七五調が大いに用いられた。「汽笛一声 新橋を/はやわが汽車は 離れたり/……」(『鉄道唱歌』)などその数は多い。
[佐佐木幸綱]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…フランス詩でひろく用いられるアレクサンドランalexandrinという詩行は,1行が12の音綴から成り,その6音目に句切りを置くのを正格とする。日本の詩歌の,いわゆる七五調や五七調も,音数だけを問題にする点ではこれに近いが,実際には長音を2音と数え,促音や撥音を1音と数えるなどの整理が加えられている。ただし7音や5音の音群については音脚概念の萌芽のようなものが見受けられ,これをさらに精密化して,2音もしくは3音による音脚の存在を説く理論家もある。…
…もっとも,文明開化の新時代の詩を生み出す上では,これに先立つ1874年版,1876年版,1882年版などの賛美歌集や1881年に初編刊行の《小学唱歌集》などがその土壌をはぐくんでいたことを忘れてはならない。また福沢諭吉の《世界国尽》(1869)は,古来の和讃や歌謡のスタイルに通じる七五調の長詩形式によって,世界諸大陸の地理・歴史・文物に関する啓蒙を意図した作物で,明治2年(1869)という早い時期にベストセラーとなった。福沢自身は詩を書くつもりはまったくなかったが,七五調のおかげで,文字を解さぬ人々にも大いに愛誦された。…
※「七五調」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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