歌舞伎舞踊の一系統。1698年(元禄11)2月,京都の東山で信州浅間明神の開帳があった。これを当て込んで諏訪家のお家騒動を背景とし,終局に東山開帳の場を配した《けいせい浅間嶽》が京都布袋屋座で上演された。作者は中村七三郎(一説には近松門左衛門とも中村伝七とも)で,その七三郎が主役の小笹巴之丞を演じて好評を得た。このなかで巴之丞が持っていた傾城逢州の起請文を火鉢で焼くとその煙の中から逢州の姿が現れ〈胸の炎は夜に三度,此方(こち)の思いは日に三度,煙くらべん浅間山,あれごらんぜよあさましや〉といった小唄を使って巴之丞に恨みをのべた。これが評判で,以後この形で他の浄瑠璃を使っての所作事が種々作られた。こうした同種の作品を総称して〈浅間物〉と呼ぶ。以下主なる曲をあげる。(1)《夕霞浅間嶽》。一中節。1734年(享保19)春江戸中村座初演。京の次郎を初世沢村宗十郎,奥州を初世瀬川菊之丞。江戸中にねずみの糞と夕霞の浄瑠璃本のない家はないなどといわれたほど流行した作。(2)《家桜傾城姿》。一中節。36年正月江戸中村座初演。曾我十郎を初世沢村宗十郎,大磯の虎の幽魂を姉川千代三。曾我十郎が桜の枝へ銚子を吊り,林間に酒を温めようといって桜の枝を焚くとその中から虎の幽魂が立ち現れるという構成。(3)《恋桜反魂香(こいざくらはんごんこう)》。河東(かとう)節。51年(寛延4)2月江戸中村座初演。お七を初世佐野川市松,吉三の亡霊を中村粂太郎。飛鳥(あすか)山の花見で,狂気のお七が桜の枝を焚くと吉三の亡霊が現れる。これは原曲の女の亡魂を男に変えたもの。(4)《其俤浅間嶽(そのおもかげあさまがたけ)》。富本節。79年(安永8)2月江戸市村座初演。巴之丞を沢村四郎五郎,奥州を3世瀬川菊之丞。名曲として名高い。(5)《傾城浅間嶽》。一中節。92年(寛政4)正月江戸中村座初演。巴之丞を3世市川高麗蔵(後の5世松本幸四郎),奥州を松本米三郎。一中節による《傾城反魂香》の一部で内容は派手である。(6)《初霞浅間嶽》。清元節。1834年(天保5)正月江戸市村座初演。京の次郎を7世市川海老蔵,奥州を3世尾上菊五郎。前出富本節の曲を清元節に変曲したもので,現在これが最も多く上演されている。
→傾城浅間嶽
執筆者:林 京平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…京東山における浅間明神の開帳を当て込んだ作品。1幕目,禿(かむろ)が持っていた奥州の起請を火にくべると,煙の中から奥州の姿が現れ口説(くぜつ)を述べる場面が,のちに影響作として書き替えられた〈浅間物〉の特徴となる。2幕目は,巴之丞の遊興の犠牲になって遊里に身を沈めた家老和田右衛門の女房三浦,その三浦に会いにきて言い寄る巴之丞,巴之丞の愛人奥州,この3人の関係と複雑な心情を〈独り碁〉や〈草履打〉の趣向などを使って見せ場を組み立てている。…
…五郎蔵宅でさつきは因果を語りともに自害する。柳亭種彦の読本《浅間嶽面影草紙》に拠った作(浅間物)。初演時には,二幕目雪中に重宝を争う岩木山だんまり,三幕目時鳥殺し,大詰五郎蔵が切腹してから尺八を吹き,さつきが胡弓をとって合奏しつつ死んでいく場などが好評だったというが,近年では怪異趣味に満ちた前半の時代狂言は省かれ,五幕目五条坂出会い,縁切,逢州殺しの3場だけ上演される例が多い。…
※「浅間物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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