日本大百科全書(ニッポニカ) 「東莞」の意味・わかりやすい解説
東莞
とうかん / トンクワン
中国、広東(カントン)省中部の地級市。別名莞城。珠江(しゅこう)デルタ北東部に位置する。市轄区や県を管轄せず、32鎮・街道からなる(2017年時点)。人口188万9300(2013)。工業の急速な発達により出稼ぎ労働者が多く、常住人口は831万6600(2013)に達する。中華人民共和国成立後、東莞県が置かれ、1985年市制を施行した。改革開放政策が推し進められた1980年代、広州(こうしゅう)と香港(ホンコン)の中間に位置する地理的優位性から海外企業の投資先として注目され、電子部品、衣料品、家具、玩具、製紙、化学などの工業が発展した。しかし2010年ごろからは、人件費の安い東南アジアへの工場移転が相次ぎ、市勢は停滞ぎみである。ジャガイモ、キャベツ、ブロッコリーなどの野菜栽培が盛んで、香港への供給地となっている。
東莞港は古くから水運の要地で、1997年中央政府により国家一類口岸(出入国審査場)に指定され、大規模な貿易港として開発が進められた。広深線(広州―深圳(しんせん))、京九線、広梅汕(こうばいさん)線(広州―梅州(ばいしゅう)―汕頭(スワトウ))などが通じる。市中心部の虎門(こもん)駅を通る広深港高速鉄道は、2018年に香港の西九竜(にしきゅうりゅう)駅まで開通した。
虎門鎮は、清(しん)末、林則徐(りんそくじょ)がイギリス商人のアヘンを焼却処分した地として有名で、アヘン戦争の史跡である虎門砲台やアヘン戦争博物館がある。また莞城街道には、嶺南(れいなん)地方の文化を代表する東莞可園があり、広東の四大名園の一つとされる。
[周 俊 2019年6月18日]