キャベツ(読み)きゃべつ(英語表記)cabbage

翻訳|cabbage

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キャベツ」の意味・わかりやすい解説

キャベツ
きゃべつ
cabbage
[学] Brassica oleracea L. var. capitata L.

アブラナ科(APG分類:アブラナ科)の越年草タマナ(球菜)、カンラン(甘藍)ともいう。茎は太くて短く、茎頂にボタンの花状に葉をつける。葉は平滑、肉厚で幅が広く、白粉を帯びた淡緑色、成長するにつれて中心部に葉が密生し、結球する。この葉球の内部の葉を食用とする。さらに成長すると、葉球が開き、花茎を出して淡黄色の4弁花を総状花序につける。

 ヨーロッパ南部の海岸地域原産で、野生種は有史以前から利用されていた。野生種は非結球性で、結球性のキャベツの記録が現れるのは8世紀末以降である。13世紀には広くヨーロッパに広まり、とくにイギリス、フランス、ドイツ、オランダ品種改良が進んだ。日本への渡来は、18世紀初めころオランダ人によって長崎にもたらされた。『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)に蛮種紅夷菘(おらんだな)と記載されている。同書の記述によると、渡来したものは非結球性ないし半結球性で、紅紫色の系統であったらしい。「味佳(あじよし)」と記されているが、食用として発達せず、観賞用に栽培されてハボタンが生まれた。結球性のキャベツが初めて栽培されたのは幕末、安政年間に入ってからで1855年(安政2)ころである。明治初年に新宿御苑(ぎょえん)、三田育種場、北海道開拓使などにより欧米の品種が導入されたが、日本の気候に適合せず、大正から昭和にかけて、民間育種家の努力により、日本の気候に適した品種が育成された。今日では、品種と栽培法、栽培地の組合せにより、周年出荷されている。

 キャベツは播種(はしゅ)、収穫期の違いによって、春キャベツ、夏秋キャベツ、冬キャベツに分けられる。春キャベツは9~10月に播種し、苗で越冬して翌年の晩春から初夏にかけて収穫する。主産地は千葉、神奈川、茨城、愛知、兵庫、福岡、熊本、鹿児島など大都市周辺の諸県である。品種は結球が容易で品質のよい中野早生(わせ)やサクセッションの系統のものが用いられる。夏秋キャベツは2~6月に播種し、6~9月に収穫する。群馬県の嬬恋(つまごい)や長野県の八ヶ岳(やつがたけ)山麓(さんろく)など高冷地や北海道が主産地で、群馬県は全国の夏秋キャベツ生産の5割を占める。品種は、2~4月の低温期播(ま)きには、コペンハーゲン・マーケットや黄葉系サクセッションの系統、4~6月播きには札幌や南部の系統が用いられる。なお、第二次世界大戦後に台湾から導入された品種の葉深(ようしん)は、暖地の秋どり栽培の作型の確立に貢献した。冬キャベツは、6~8月に播種し、10月から翌年4月にかけて収穫する。関東地方以北では寒さのために球が腐敗するので、比較的暖地が主産地で、愛知県の渥美(あつみ)半島、鹿児島、千葉、茨城などで生産が多い。品種は、南部、黒葉系サクセッション、葉深などの系統が用いられる。

 なお、今日、キャベツの品種のほとんどが一代雑種になっており、固定品種は使われない。

 栽培は、苗を育てて畑に定植する方法がとられ、一定の大きさに達した苗が低温にあうことによって花芽が分化する。その後の高温と長日によって花茎の伸長と開花が促進されるので、幼苗期を低温で経過する春キャベツや夏秋キャベツは、とう立ちしないよう注意が必要である。苗齢と低温感受性の関係は品種によっても異なり、本葉2、3枚の苗から低温に感応する品種もあり、本葉12、13枚の苗でも低温に感応しない品種もある。害虫による被害が多く、アオムシヨトウムシは葉を食害し、アブラムシ類は葉の汁を吸う。ネキリムシやケラは幼苗期の根を、ダンゴムシナメクジは茎葉を食害する。

[星川清親 2020年11月13日]

文化史

ギリシアでは、ピタゴラスがその効用を説くとともに品種改良を試みている。ローマの大カトーは『農業論』(前160)のなかで、キャベツの消化促進作用を賞賛し、また3品種をあげるが、その一つは葉が重なり合って大きな球になっていると述べられ、結球性がうかがえる。アジアへの渡来ははっきりしないが、アレクサンドロス大王が兵士に食べさせた話が伝えられているので、その遠征中にもたらされた可能性が強い。台湾には、17世紀にオランダ人によって伝えられた。日本での民間栽培は、津田仙(つだせん)が1872年(明治5)に手がけたのが最初で、当時は甘藍(かんらん)とよばれて1個1朱(しゅ)の値で売られたという。

 中世のスコットランドでは、11月1日の万聖節の前夜に未婚の青年たちが、収穫の終わったケール(キャベツの祖型)畑で未来の配偶者を選ぶ占いをした。目をつぶった男女が畑のケールを引き抜き、その茎の大小や曲がりぐあいで体格を、また切り取った茎の味で気だてを占ったという。キャベツ畑から赤ん坊を拾ってくるという俗説には、このケール畑で未婚の男女が集い、結ばれるという行事の影響も考えられる。

[湯浅浩史 2020年11月13日]

食品

今日のキャベツはすべて結球性であるが、球の形により平型(扁球(へんきゅう)形)や立型(円筒形)など、また葉の緑色のもののほかに紅紫色のムラサキキャベツ、あるいは葉にしわが多いチリメンキャベツなどがあり、それぞれ品種がある。和風、洋風、中華風を問わず、生食(せいしょく)、煮物、漬物、サワークラウト(ザウアークラウトともいう。一種の酢漬け)、油炒(いた)めなど、さまざまな料理に用いられる。近年は、生食向きに葉質が柔らかく、葉色が緑色系の品種や、葉球の小ぶりのものが好まれる傾向がある。100グラム当り、タンパク質1.4グラム、ビタミンAはカロチンで18マイクログラム、B1、B2をそれぞれ0.05ミリグラム、Cを44ミリグラム含んでいる。ムラサキキャベツや葉が赤色のアカキャベツはサラダ用に近年需要が増加している。チリメンキャベツはキャベツの1変種で、フランスのサボア地方が起源なのでサボイキャベツともよばれ、葉は緑色で縮み、主として生食用で、欧米では利用が多く、生産も盛んで、日本でも注目されつつある。キャベツの仲間には、非結球で次々に葉をむしり取って食べるケール、カブのような球茎を食べるコールラビー、多数の側芽が小さな球葉になり、まるごと食べられるメキャベツなどがある。ハクランはハクサイとカンラン(キャベツ)の種間雑種複二倍体で、両親の中間的特性をもっている。葉質はキャベツより柔らかく、生食に適しており、煮物や漬物にもよい。

[星川清親 2020年11月13日]

『農山漁村文化協会編・刊『野菜園芸大百科8』(1989)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キャベツ」の意味・わかりやすい解説

キャベツ
Brassica oleracea var. capitata; cabbage

アブラナ科の越年草で,世界的に重要な野菜の一つ。甘藍ともいう。ヨーロッパ西部海岸地帯の原産とされるが,南北両半球の冷温帯で広く栽培されている。葉は密に重なって生じ,互いに抱合って球形になるので,タマナ (球菜) とも呼ばれる。

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