日本大百科全書(ニッポニカ) 「松崎天神縁起」の意味・わかりやすい解説
松崎天神縁起
まつざきてんじんえんぎ
天神縁起絵巻の一つ。鎌倉末期の作で、山口県・防府(ほうふ)天満宮蔵。重文。6巻からなり、第1~第5巻は『北野天神縁起』弘安(こうあん)本の内容とほぼ等しく、菅原道真(すがわらのみちざね)の一代記と死後の霊験譚(れいげんたん)が説かれる。第6巻には松崎神社草創の由来が添えられる。すなわち、道真が九州に左遷の途次、周防(すおう)国勝間浦に立ち寄った際「此地(このち)いまだ帝土をはなれず、願はくば居をこの所に占めむ」と誓ったことから、904年(延喜4)に創立された旨が叙されている。第6巻の奥書により、1311年(応長1)、時の国司土師(はじ)信定がつくらせたことがわかる。克明な描写、濃墨の輪郭線に濃麗な彩色を施した画風が特徴的で、当時の絵巻の代表作の一つにあげられる。
[村重 寧]
『小松茂美編『続日本絵巻大成16 松崎天神縁起』(1983・中央公論社)』