北野天神縁起(読み)キタノテンジンエンギ

デジタル大辞泉 「北野天神縁起」の意味・読み・例文・類語

きたのてんじんえんぎ【北野天神縁起】

菅原道真すがわらのみちざね生涯死後怨霊おんりょう説話北野天満宮由来霊験を描いた絵巻鎌倉時代の作。

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精選版 日本国語大辞典 「北野天神縁起」の意味・読み・例文・類語

きたのてんじんえんぎ【北野天神縁起】

  1. 鎌倉時代の絵巻。紙本着色。八巻。作者不詳。建保年間(一二一三‐一九)成立。菅原道真をまつって建てた北野天満宮縁起を描いたもの。構成は道真伝、菅公怨霊譚、北野社草創、北野社霊験の四部からなる。現存する天神縁起の原本とみなされるところから、根本縁起と呼ばれる。国宝。京都の北野天満宮所蔵。

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改訂新版 世界大百科事典 「北野天神縁起」の意味・わかりやすい解説

北野天神縁起 (きたのてんじんえんぎ)

鎌倉時代初期の社寺縁起の代表的作品。天神信仰の隆盛に伴い種々の作品が制作され遺品も多い。最も古い遺品は,根本縁起として北野天満宮に秘蔵された9巻本で,詞書中に〈承久元年(1219)今にいたるまで〉とあることから承久本と呼ばれ,ほぼこのころの制作と考えられる。1巻から6巻には菅原道真の生涯と死後の怨霊による災いが描かれる。後の2巻は絵のみで詞書はなく,日蔵(道賢)上人地獄巡りと六道のありさまを収める。また第9巻は創立由来と利生記だが未完成のまま一部白描の画稿だけが残る。縦幅52cm強というまれにみる大きな画面に描かれ,ときに稚拙ともみえる独特の形態をもった人物描写や,無造作に何度も引かれた描線には,強い原初性がうかがわれる。承久本のほかに,本文(詞書)の系統を異にする弘安本3巻(1278)や,それよりやや古い正嘉本が作られ,転写が重ねられた。なかでも弘安本は承久本とは正反対に整然とした構図で,冷たく生硬な表現様式を示す。このほか,各地の天神社において縁起絵巻の制作,転写が重ねられ,正嘉・弘安本系の縁起に自社の縁起を加えた《松崎天神縁起》,承久本の系統をひく《荏柄天神縁起》など多様な天神縁起が生み出された。
執筆者:

《北野天神縁起》はふつう,(1)祭神である菅原道真の生涯を説話的色彩を加えて描いた伝記,(2)道真の怨霊(御霊)が猛威をふるうという伝承,(3)道真の霊の託宣があって北野社が創建され,道真に贈位贈官のあった次第,(4)天神の加護によるさまざまの霊験の説話,という4部から成る。しかし,承久本は(2)の怨霊譚で,日蔵が冥界におもむき,道真の化身にあって国土を亡ぼそうとする怨念を聞き,道真を無実の罪で大宰府に左遷した醍醐天皇が地獄で苦しむのを見たとする部分を,無視している。これに相当する部分をたんなる六道絵で埋め,本来の詞書も欠いており,未完のままになっている。承久本の六道絵は罪障をはらう信仰によるものともいわれているが,天神の持つ国家の守護神という一面を強調しようとする天台教団や摂関家の規制をうけたため,無理な構成を強いられ,中断するにいたったものであろう。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「北野天神縁起」の意味・わかりやすい解説

北野天神縁起
きたのてんじんえんぎ

絵巻。菅原道真(すがわらのみちざね)の一代の伝記に、あわせてその死後の祟(たた)りや北野天神創建の由来、およびその霊験譚(れいげんたん)などを描いたもので、諸国の天満宮に流布している。そのなかで制作年代も古く作品的価値も高いものとして、京都北野天満宮所蔵の「承久(じょうきゅう)本」8巻(国宝)と「弘安(こうあん)本」残欠2巻とがとくに名高い。「承久本」は詞書(ことばがき)の初めに「承久元年己卯(つちのとう)(1219)今に至るまで」とあるのでこのようによばれ、制作時期もそのころと考えられる。この絵巻は道真一代の物語、死後の事跡および日蔵(10世紀の高僧)の六道めぐりを説くにとどまり、他の天神縁起にみられるような、その後の北野天神鎮座の由来や、霊験譚を欠いている。本巻は現存絵巻物中もっとも縦幅が広く、その大画面に大胆な構図、雄渾(ゆうこん)な筆致を用い、色彩は華麗で描写も溌剌(はつらつ)としており、「北野天神縁起」中の圧巻である。「弘安本」は、下巻の詞の末尾に「弘安元年(1278)夏六月のころ微功をおふ」とあることからこの名があり、筆者が従来土佐行光(ゆきみつ)と伝えるところから「行光本」とも称される。承久本とは反対に、繊細な描線、淡泊な色彩を用い、優雅な趣(おもむき)に富む。制作時期はやはり弘安ごろとみられる。

 この2作のほかに注目すべきものとして『松崎天神縁起』(6巻、山口・防府(ほうふ)天満宮)『荏柄(えがら)天神縁起』(3巻)があげられる。『松崎天神縁起』は、道真の一代記、および死後の神人としての霊験譚のほかに、松崎神社(現防府天満宮)創建の由来を加え、この点が他の天神縁起と内容を異にする。1311年(応長1)の制作で、絵は濃く明確な描線と鮮麗な色彩が特徴的である。『荏柄天神縁起』は鎌倉の荏柄神社に伝来したのでこの名があり、1319年(元応1)の制作。このほか室町以後のものも多数伝存し、中世以降における天神信仰の著しい普及を物語っている。

[村重 寧]

『源豊宗編『新修日本絵巻物全集9 北野天神縁起』(1977・角川書店)』『小松茂美編『日本絵巻大成21 北野天神縁起』(1978・中央公論社)』『小松茂美編『続日本絵巻大成16 松崎天神縁起』(1983・中央公論社)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「北野天神縁起」の解説

北野天神縁起
きたのてんじんえんぎ

菅原道真の生涯や死後の怨霊(おんりょう)談,北野天満宮の由緒・霊験などに関する絵巻物。鎌倉初期から制作され,転写・流布本も多い。最古の伝本は京都の北野天満宮所蔵本で,詞書(ことばがき)に「承久元年(1219)今に至るまで」とあることから「承久本」とよばれ,この系統のものの根本とみられるので「根本縁起」ともよばれる。大型画面に粗放な線描と鮮烈な色彩で描かれる異色作。怨霊の災いも描かれている。絹本着色。全8巻で縦51.5cm,横各巻845.2~1204.8cm。国宝。ほかに詞書の系統が異なる正嘉本(1258年頃),弘安本(1278年頃)があり,繊細な描写に優れる。正嘉・弘安本系の系統をひく「松崎天神縁起」(1311年),承久本系の「荏柄(えがら)天神縁起」(1319年)など地方作もうみだされた。

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