日本大百科全書(ニッポニカ) 「果てなし話」の意味・わかりやすい解説
果てなし話
はてなしばなし
昔話。同じことの繰り返しがいつまでも続く形の形式譚(たん)の一つ。「橡(とち)の実(み)」はその一例である。丘の上のトチの木が、実をいっぱいつける。風が吹くと、木の実が一つ、枝から落ち、丘を転がり落ちて小川に入る。木の実は沈むが、また浮かんできて、あっちこっちひっくり返って流れていく。また風が吹くと、……と、一つ一つ語りを繰り返す。海を渡るネズミの大群が、一匹ずつ海に飛び込むようすを繰り返し語る「長崎の鼠(ねずみ)」など、いろいろな主題がある。子供が昔話を際限もなくせがむのを断るときに用いる。同じことの反復で、子供を飽きさせる効果をねらっているが、「橡の実」では、語り手が疲れると、突風が吹いてみんな落ちてしまったと結ぶこともできる。これは、もっと続くものと期待している聞き手をもうおしまいと突き放す「尻(しり)切れ話」の形で、やはり、聞き手を撃退する形式譚の一つである。「果てなし話」は、それ自体が興味深い語りの形式で、類話はアジア、ヨーロッパに広く知られている。たくさんのヒツジが一匹ずつ小川を渡るとか、たくさんの鳥が木から一羽ずつ飛び立つとか、発想法は「橡の実」などとまったく同一である。日本には「果てなし話」をなかに取り込んだ昔話がある。話の好きな殿様がいる。いくら聞いても飽きない。殿様に話を飽きさせた者に褒美をやると高札を立てる。美しい娘がきて、果てなし話をする。殿様は話に飽きる。『アラビアン・ナイト』を思わせる枠物語の形式であるが、この類話もインドやヨーロッパにある。
[小島瓔]