知恵蔵 「栁澤寿男」の解説
栁澤寿男
04年、マケドニア旧ユーゴスラビア国立歌劇場でオペラを指揮して好評を博し、05~07年、同劇場の首席指揮者を務める。07年3月、UNMIK(国連コソボ暫定行政ミッション)統治下のコソボ自治州において、コソボフィルハーモニー交響楽団に客演し、同年10月、常任指揮者に就任。09年5月には首席指揮者となった。
07年6月、バルカンにおける民族共栄を目指して、セルビア人・アルバニア人・マケドニア人等の音楽家を楽団員とするバルカン室内管弦楽団を設立。同年の「ニューズウィーク日本版・世界が尊敬する日本人100」に選出される。09年5月、コソボ北部のミトロビッツァにおいて演奏会を実現し、成功を収める。対立する民族による約20年ぶりの歴史的共演は世界中で取り上げられ、日本国内でもBSジャパン「戦場に音楽の架け橋を~指揮者栁澤寿男コソボの挑戦」でコンサートの様子が放送されて10年の第6回日本放送文化大賞グランプリを受賞するなど、大きな話題となった。また、日本の高等学校検定教科書「世界史A」(実教出版)のコラムにも栁澤寿男とバルカン室内管弦楽団の活動が記載されている。10年5月にはボスニア人を楽団員に加え、サラエボ公演を実現した。
この他、バルカン諸国を中心に多くの楽団に客演し、音楽を通して民族対立や抗争の無意味さを訴え続けている。11年5月、ウィーン楽友協会ホールでの公演を成功させる。同年、信濃毎日新聞社「信毎選賞」受賞。13年、栁澤寿男とバルカン室内管弦楽団が出演するドキュメンタリー映画「World Without War」(邦題「戦争なき世界へ」)が全世界で公開される。14年7月5日(日本時間6日)、第1次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件から100年の節目に、平和を祈念しサラエボ国立劇場にてベートーベンの交響曲第九番を演奏し、成功させた。著書に『戦場のタクト~戦地で生まれた奇跡の管弦楽団』(実業之日本社)がある。
(葛西奈津子 フリーランスライター / 2014年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報