改訂新版 世界大百科事典 「核外遺伝」の意味・わかりやすい解説
核外遺伝 (かくがいいでん)
extranuclear inheritance
遺伝子の大部分は染色体を構成し,核に存在する。この核内遺伝子はメンデルの法則に従って両親から子どもへ伝達される。しかし,生物は核内遺伝子以外にも遺伝因子をもつ。その一つはミトコンドリアや色素体のような細胞小器官に存在するその生物固有の遺伝子で,細胞質遺伝子とよばれる。細胞質遺伝子およびこの遺伝子に支配される形質の遺伝を細胞質遺伝という。
生物はまたその細胞質中に自己増殖できるプラスミド,ウイルス,バクテリア様の寄生・共生微生物をもっていることが多い。これらを感染因子という。感染因子自身および感染因子のもつ遺伝因子によって支配される形質の遺伝を感染遺伝infectious heredityという。ハツカネズミのある種の乳癌,キイロショウジョウバエの二酸化炭素感受性,ゾウリムシのキラー形質はこの好例である。
以上の細胞質遺伝と感染遺伝を総称して核外遺伝という。細胞質遺伝子も感染因子も,ふつう母親を通してのみ次代へ伝達される。この単親性遺伝が核外遺伝の共通の特徴である。しかし,核外遺伝に関与する個々の遺伝因子がその生物固有の細胞質遺伝子であるか,外来性の感染因子であるかの判断は必ずしも容易ではない。事実,ゾウリムシのキラー形質やペチュニアの雄性不稔性のように,長い間細胞質遺伝すると考えられてきた形質で,その後,感染遺伝をすることが明らかになったものが多い。また,ミトコンドリアや色素体の起源さえも原核生物の共生に求める説がある。このようなことから,感染遺伝を細胞質遺伝に含めてしまい,細胞質遺伝=核外遺伝とする考え方もある。
→遺伝
執筆者:常脇 恒一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報