日本大百科全書(ニッポニカ) 「プラスミド」の意味・わかりやすい解説
プラスミド
ぷらすみど
plasmid
細胞内で核や染色体と独立に存在し、自律的に自己増殖して子孫細胞に伝えられる遺伝要因。1952年にアメリカの遺伝学者レーダーバーグによって細菌類の染色体外遺伝要因に対して命名されたが、最近は細菌類に限らず真核生物をも含め、細胞質因子と同義に用いることが多い。プラスミドは小さな環状のDNA(デオキシリボ核酸)分子の場合が多く、細胞質で自己複製能力をもつDNA複製単位レプリコンである。大腸菌のプラスミドには、F因子、R因子、コリシン因子など数種が知られ詳しく研究されている。F因子は分子量約6200万の環状DNAで、1細胞当り1個か2個含まれ、その細胞に接合能力を与える。R因子もF因子とほぼ同じ大きさで、いくつかの抗生物質など薬剤に対する抵抗性を支配している。コリシン因子は他の細菌を殺す作用をもつコリシンといわれる物質の生産を支配し、普通、一細胞に10個あるいはそれ以上含まれている。酵母では2ミクロンDNAとよばれるプラスミドがみいだされている。これは長さが2ミクロンのDNA分子で、一細胞当り50個余り含まれるが、その働きは不明である。
プラスミドは遺伝子工学実験で遺伝子の運び手、すなわちベクターとして有用である。DNAの特定部位を切る制限酵素でプラスミドを切り、異なる種から分離した遺伝子をつなぐと組換えDNAができる。組換えDNAは、大腸菌などの生細胞に移入され、遺伝子の増殖、すなわちクローン化が行われる。遺伝子工学では、大腸菌のF因子やR因子のように自然のなかでみいだされるプラスミドの各種から有用な部分を取り出してつなぎ、小さな人工的プラスミドをつくり、ベクターとして用いることも多い。pBR322というプラスミドはこの一例で、DNA複製起点のほか、テトラサイクリンとアンピシリン抵抗性遺伝子をもつ分子量約260万の環状DNA分子である。このプラスミドは各種制限酵素による切断点をもつので、その位置に遺伝子をつなぎ、組換えDNAをつくり、大腸菌細胞に入れて遺伝子のクローン化に使われる。
[石川辰夫]