翻訳|symbiosis
同一地域に共存する多数の生物種の間にはひじょうにさまざまな相互関係があるが,その中の一つ。ふつうには,2種間で両方または一方が利益を受けて,どちらも害を受けないような関係と定義されている。そして,両方がともに利益を受けるような関係を相利共生mutualism,一方のみが利益を受けるような関係を片(偏)利共生commensalismと呼ぶ。ただし,前者のみに対して共生という言葉を用いることもある。
しかし,これは概念上または整理上のことで,具体的にはこのようにきれいに割り切れるものではない。歴史的にはsymbiosisという言葉は,19世紀後半になって地衣類が藻類と菌類の合体したものであることが明らかにされたときに,その関係を記述するために新しく造られたものである。したがって,そこには身体を接し続けているという意味が暗黙のうちに含まれている。その後20世紀になって,生物の相互関係を相互に受ける利害という観点から整理することが行われたときに,意味が拡大されて,身体が触れ続けない場合や栄養獲得とは関係のない場合まで含められるようになり,その外延はきわめてあいまいなものとなった。また典型的な共生では,共生関係なしでは生活できないものだが,そうでない場合でも共生と呼ぶのがふつうである。
相利共生の典型的な例は上記の地衣類であるが,そのほか植物と植物の共生として有名なものに,マメ科植物と根粒菌,ハンノキ類・ドクウツギ類などと放線菌(これも根粒を生ずる),菌根をつくる種々の高等植物と下等菌類がある。これらの植物はいずれも共生関係がなくても生活できるが,ラン科植物の中には菌類と共生しなければ発芽・生長できないものがある。これらでは,高等植物が光合成産物を供給し,菌類やバクテリアが死体分解産物または空中窒素固定産物として栄養塩類を供給するという栄養交換関係がある。
植物と動物の相利共生の例としては,緑藻類が種々の原生動物,海綿動物,ヒドラ,ヒラムシなどの体内表層にいる場合が知られているが,この場合にも共生関係は絶対的なものではない。多くの草食性動物と腸内バクテリアの関係では,動物はバクテリアのセルロース分解作用によって栄養を得なければならない。花みつまたは花粉食の動物が花粉を花から花へ運んで被子植物の受粉をするという関係は,植物に花弁や花粉の進化を促し,今日では絶対的な相利共生関係になっている例が数多くある。また,果実食鳥類による樹木の種子散布でも,双方がそれに適した習性や形態を進化させてきているものがある。さらに特殊化したものとして,一部の甲虫類やハキリアリによる菌類の〈栽培〉行動,イチジクとイチジクコバチの関係,アリ植物などが知られる。
動物と動物の相利共生としては,シロアリと腸内原生動物,アリとアブラムシ(アリマキ),ヤドカリとイソギンチャク,クマノミ(魚)とイソギンチャクなどが有名であり,近年では魚の外部寄生虫を食べるエビやホンソメワケベラなどの魚(掃除魚と呼ばれる)と掃除される魚の関係や,大型哺乳類とその外部寄生虫を食べるウシツツキという鳥の関係が関心をもたれている。異種混群で採餌する鳥たちや,大型哺乳類のまわりで追い出された昆虫を食べる鳥が,相利共生関係にあるかどうかはよくわかっていない。
片利共生は一方的な関係であるから,寄生との区別が難しい場合が多い。サメやウミガメについているコバンザメ,ナマコの腸内にかくれるカクレウオ,カツオノエボシの触手の間にいる小魚,グンタイアリの群れについてまわって追い出された昆虫などを食べる鳥,その他そのための特別な形態や習性を進化させてきた動物は多いが,それによって相手が害を受けていないかどうかははっきりしていない。
また,肉食獣の食べ残した死体をあさる鳥獣,猛禽(もうきん)やスズメバチの巣のすぐそばに営巣する鳥,動物体や流れ藻につく着生性動植物,動物体に付着して分散する種子や幼生をもつ動植物,他種の掘った穴をかくれ家にする動物,植物の下にかくれて敵を逃れる動物,このようなものは確かに他の生物から一方的に利益を得ているのだが,それらを片利共生関係にあるということでまとめても,生物の生活についてなんら新しいことはわからない。こういった意味で,共生という概念は,利害による整理という姿勢そのものと併せて見直されなければならない。
なお,これらは異種個体間の関係であるが,個体群間の関係として見ると,捕食動物は獲物の個体数調節の役割を果たしている(これが事実かどうかには論議がある)として,相利共生関係にあるとする人もいる。
→共生栄養
執筆者:浦本 昌紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
異なる種類の生物が、生理的あるいは生態的に緊密な結び付きを保ちながらいっしょに生活している現象。共生は原則的には個体間の関係をさすが、社会や個体群など集団の間の関係を含める場合もあり、その適用範囲はあいまいである。2種類の生物が単に同じ生息場所にすんでいる場合や、第三の生物を介して間接的に影響しあっている場合は共生とはいわない。
共生者の双方が生活上の利益を受ける共生を相利共生、一方のみが利益を受け他方が利益も不利益も受けない共生を片利共生、一方が利益を受け他方が不利益を受ける共生を寄生という。しかし、利益・不利益の判断基準はかならずしも明確ではなく、しばしば便宜的、直観的である。寄生を共生から区別し、両者を対語として用いる見解もある。相手の存在が自分の生存に必須(ひっす)である場合を義務的な共生、必須でない場合を任意的な共生という。
地衣類は藻類と菌類とが緊密に相互依存してできた共同体で、普通、独立した分類群として扱われる。それぞれ単独では生息できない裸岩上や極寒地にまで分布する。藻類は光合成によって得た炭水化物を菌類に供給し、菌類からは水と無機物を得ている。シロアリの腸管にすむ鞭毛虫(べんもうちゅう)類は、シロアリが消化できない木材細片中のセルロースを分解して栄養源を供給し、一方、鞭毛虫類は食物と生活場所を得ている。この関係を消化共生という。サンゴのポリプの体内に共生する褐虫藻は、サンゴの排出物の除去と骨格の形成に重要な役割を果たしている。
動物どうしの相利共生では、双方の間にしばしば信号系が発達している。アリが触角でアリマキを軽くたたくと、アリマキは糖分を含んだ分泌物を出す。テッポウエビが掘った巣穴に同居するハゼは入口で見張りをし、危険が近づくと尾部をふるわせてエビに知らせる。ウシツツキはイボイノシシの体表に埋まっているダニや寄生虫を取り除き、それを自分の餌(えさ)とする。また、サンゴ礁にすむホンソメワケベラやオトヒメエビは魚の体表やえらに付着する寄生虫や悪くなった皮膚を食べる。これらの関係を掃除共生という。
片利共生では、寄生と同様、宿主と共生者の間に極端な体の大小があることが多い。クジラの皮膚やカメの甲に着生するフジツボ、ナマコの排出腔(はいしゅつこう)にすむカクレウオ、イソギンチャクの触手や口道に隠れるクマノミなどがその例である。
動物・植物を問わず、大部分の生物は他のいずれかの生物と共生関係を結んでいる。共生関係は、捕食と被食関係、競争関係とともにもっとも基本的な種間関係の一つである。
[柳沢康信]
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(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また,暖海沿岸の砂泥底にはテッポウエビ類とハゼ類がさまざまな組合せで,エビのつくった穴の中に共にすんでいて,ハゼが先に外敵を見つけて共に穴に隠れる。こういう例は広く協同cooperationと呼ばれ,とくに生理的な結びつきの大きいときは共生symbiosisの語の用いられることが多い。 従来はこうした関係のうち,とくに相手の存在なしにはまったく生活を維持できない絶対的なものだけが注目されていたが,最近になって,相手の存在するほうが好つごうだというようないわば相対的なものにも,注意が払われてきている。…
…海水を清浄に保ち,ときどき餌を与えるとコップの中でも長時間飼育することができる。
[他の動物との関係]
イソギンチャクには,特定の動物に着生または共生するものが多い。ウスアカイソギンチャクはヤギ(腔腸動物)の体上に群をつくり,タテジマイソギンチャクは,カキの貝殻の上を好む。…
…維管束植物の根に菌類が共生的に生活しているもの。一般に,維管束植物の側は無機物やビタミン類を菌類より受け,菌は植物の根から有機物を取る。…
…この点で生物間の関係は,少なくとも時間をかなり長くとってみれば,結果として相互扶助的なものであるといってよい。すなわち群集は,全体として見れば,協同的ないし共生的なものなのである。
[食うものと食われるもの]
生物と生物との間に見られるもっとも基本的で具体的な関係として,まず食うものと食われるものの関係を取り上げよう。…
…それからも雌は幼虫たちが成育するまでその近くにつきそって,捕食者などが近づくと攻撃的な羽ばたきをして,敵を撃退し幼虫たちを守る。またツノゼミにはアリとの間に,アリとアブラムシとの間と同様な共生的関係を有する種がある。アリはツノゼミから甘露をもらうことにより,ツノゼミを保護する。…
※「共生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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