改訂新版 世界大百科事典 「根拠律」の意味・わかりやすい解説
根拠律 (こんきょりつ)
principle of sufficient reason
くわしくは充足根拠律。充足理由律,理由律とも言われる。矛盾律と並ぶ二大原理としてライプニッツによって提唱されたもので,〈何ものも根拠のないものはない〉という形で表現される。その意味するところは〈一つの事物が存在し,一つの事件が起こり,一つの真理が生ずるためには,十分な根拠がなければならない〉ということであり,したがってこれは論理学的原理であるとともに形而上学的原理でもある。たとえば主語概念を分析し,そこに述語概念が含まれているかどうかを単に理性によって確かめるだけで真偽が決定されるような理性的認識は矛盾律を原理とするが,そうした操作では真偽が決定されえぬ経験的認識の真理性を支えるのが根拠律なのである。こうしてライプニッツは真理を2種に区分する。矛盾律に基づく永遠の真理ないし必然的真理と,根拠律に基づく事実の真理ないし偶然的真理とである。偶然的真理と見えるものも,事実の無限の系列をたどることができれば,したがってその系列を一瞬に直観しうる神の目には必然的と映るにちがいないのだが,それをなしえぬ人間はその真理が成立するのに十分なだけの根拠があると想定するしかないのである。のちにショーペンハウアーがこの根拠律を生成,認識,存在,行為の4領域に即して精密に規定しようと試み,近くはハイデッガーが根拠律を手がかりに根拠の問題を問い深めようと試みた。
執筆者:木田 元
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報