日本大百科全書(ニッポニカ) 「森林生態系」の意味・わかりやすい解説
森林生態系
しんりんせいたいけい
森林植物を中心とした生態系をいい、その骨格をなす植物は樹木である。樹木は木質組織をもつ長命な植物であるため、樹高数十メートルにも達する大個体となり、その集団である森林は大規模な生態系をなし、巨大な現存量をもつ。しかし、森林は巨大な樹木だけで構成されているわけでなく、高木、亜高木、低木、草本、コケ類などが重なり合った、立体的に複雑な構造をなしている。森林においては植物以外の生物相も豊富で、昆虫類、鳥類、哺乳(ほにゅう)類のほか、土壌動物や土壌微生物類も多く生息し、その生物相は多様である。光合成を行う葉は垂直的に広がって分布し、葉量も大きく、光吸収に好適な立体構造をもっているため、森林の植物生産力は他の植物生態系よりも大きい。したがって、森林では動物類を扶養する力も大きく、これらを受けて微生物の活動も活発であり、大規模、かつ円滑な物質循環がみられる。森林は陸上でもっとも水分条件のよい所に成立し、また遷移の最終部に位置するものであるため、陸上の生態系の究極の姿が森林といえる。さらにその最終到達点ともいえる原生林では、年々生産される植物質と同量が枯死したり、動物に摂食されたりして、現存量が増加しないという、物質循環上の動的平衡状態がみられる。
[只木良也]