厳密にはまったく天然のままで,人類の手が加えられたことのない森林をいい,原始林ともいう。人口の増加や社会の変化とともに人間の森林への干渉が増大し,厳密な意味での原生林はしだいに消滅しつつある。原生林はそれぞれの地方の環境条件(気候,土壌など)下で安定した生物量,種組成を保っている。これらの森林がなんらかの原因で破壊されると,一時的に植生が変わるが,時間が経過し植物が生長するにともない,種組成はしだいに変化していく。これを遷移と呼んでいる。このような種組成の変化はいつまでも続くものではなく,やがて与えられた環境条件のもとで森林の種組成や構造は安定し,変化しなくなる。この状態を極相と呼んでおり,条件が変わらない限り安定していると考えられるから,原生林と同じ構造と種組成をもつと考えてよい。ただしこのような状態に達するのに長期間を必要とし,その間に人為,自然の破壊をうけることが多く,現存する森林の多くは遷移の途中段階にあるものも含め,原生林というより天然林または天然生林と呼ぶ方が望ましい。
執筆者:堤 利夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
まったく人の手が加わったことがなく、過去に重大な災害等の被害も受けていない自然のままの森林をいい、原始林、または俗に処女林などともよばれる。世界的にみても、厳密な意味の原生林は熱帯多雨林や亜寒帯林の一部などに残るにすぎず、とくに日本ではほとんどないと考えられる。このため、原生林を広く解釈して、人間が計画的に伐採したことがなく、かつ、近年重大な災害も受けていないために極相状態に達している森林(遷移(せんい)の最終段階で、安定し、永続性のある森林)、という程度にとらえるのが妥当であろう。こうした原生林は、その地域の気候や土壌などの環境条件に応じ、動的平衡状態といわれる生態学的安定状態にあるのが普通で、その機構や機能は、人間の土地利用法、農林業技術、環境保全技術などに対する基礎データを与え、具体的モデルとなる。また、土地利用に失敗したときの自然回復の見本ともなる。さらに、将来の必要に応じるための生物種の保全場所としても重要で、これは原生林のような種の多様性のなかにおいてのみ実現される。
[只木良也]
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… 自然状態で安定な植物群落を極相という。湿潤な日本の極相は森林であり,昔から手つかずで残されてきた極相の森林を原生林(原始林),雑木林のように人手が加わってできた森林を二次林,造林された林を人工林という。森林の国日本において原生林に近い天然林は少なくなり,とくに照葉樹林は社寺林程度しか残されていない。…
…自然の状態のままで,人手の加えられていない森林。原生林も天然林であるが,風や火災,あるいは伐採などで破壊されたあとに自然に放置しておいて再生した若い森林もまた天然林である。後者は天然生林または二次林ともよばれる。…
※「原生林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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