知恵蔵 「水戸黄門」の解説
水戸黄門
あらすじは、江戸時代、水戸藩2代目藩主の水戸光圀が越後のちりめん問屋に扮して諸国を漫遊しながら世直しをするというもの。「大岡越前」「江戸を斬る」などと交互に放送された。テレビ界まれにみる長寿番組で、42年間多くの人に親しまれてきたが、11年12月での放送終了が決定している。03年12月には放送1000回を数え、歴代のレギュラーが総出演する3時間のスペシャルが放送された。最高視聴率は1979年(第9部)に記録した43.7%。主題歌の「あゝ人生に涙あり」(木下忠司作曲)は、人生の応援歌として多くの人に愛されている。
実在の水戸光圀は水戸藩初代藩主頼房の3男で、徳川家康の孫にあたる。34歳で2代目藩主となり、勧農政策や教育の振興、藩職制の整備などに力を入れた。江戸の藩邸に彰考館を建てて『大日本史』編纂に努めたが、彼が国内を漫遊したという記録は残っていない。しかし、番組では佐々木助三郎(=助さん)、渥美格之進(=格さん)を供に連れて、北は北海道の松前藩から南は鹿児島の薩摩藩まで、江戸時代琉球国であった沖縄を除く日本全国を漫遊する。だが、撮影はほとんど京都で行われ、現地ロケを行ったのは、嬉野(佐賀県)、長崎(長崎県)、金沢(石川県)、宮島(広島県)、箱根(神奈川県)などだけである。
有名な「この紋所が目に入らぬか」という決め台詞は、シリーズ開始時はその位置づけがあいまいだった。当初は「威圧的」だと内部から反対意見が出たが、実際に放送したところ視聴者の評判が良く、次第に定着していった。
時代考証的には多くの誤りが指摘されている本作だが、明朗時代劇の王道として認識されている。テレビ放映以前にも映画化されていたが、本作がこれまでの映画などと決定的に違うのは、家族で楽しめるホームドラマを目指し黄門一行の関係を「お爺ちゃんと孫の関係」と捉えたことと、忍者崩れの「盗賊風車の弥七」、旅先のガイド役にもなる「うっかり八兵衛」というキャラクターを創造したことである。第16部から登場の由美かおる扮する「かげろうお銀」も好評を博した(第29部からは「疾風のお娟」として登場)。それによって、95年にはお銀を主役とした「かげろう忍法帖」というスピンオフ作品も生まれた。
主役の水戸光圀は、企画段階では森繁久弥がキャスティングされていたという話もあるが、初代は東野英治郎(69年~83年4月)が、2代目を西村晃(83年10月~92年11月)が演じた。東野、西村共に映画俳優としては悪役を演じることが多い俳優だった。3代目は佐野浅夫(93年5月~2000年11月)が、4代目は石坂浩二(01年4月~02年7月)が、最終の5代目黄門は里見浩太朗(02年10月~最終回)が演じている。里見浩太朗は2代目助さんも演じた。
幅広い年代層に支持されてきた長寿番組だったが近年は視聴率が低迷し、11年7月に始まった第43部では10%前後と苦戦している。最終回に向けて水戸黄門一行は江戸から水戸に向かう予定。同番組の終了によって、レギュラー時代劇はNHKの大河ドラマを残すのみになる。
(金廻寿美子 ライター / 2011年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報