水酸化クロム(読み)すいさんかクロム(その他表記)chromium hydroxide

改訂新版 世界大百科事典 「水酸化クロム」の意味・わかりやすい解説

水酸化クロム (すいさんかクロム)
chromium hydroxide

クロムの酸化数ⅡおよびⅢの化合物が知られている。

化学式Cr(OH2。空気を断ってクロム(Ⅱ)水溶液に水酸化アルカリを加えて得られる黄褐色粉末。水および希酸に不溶。濃酸にはいくぶん溶ける。固体を熱すると酸化クロム(Ⅲ)Cr2O3となる。

 2Cr(OH)2─→Cr2O3+H2+H2O

強い還元剤である。

化学式Cr(OH)3。実際にCr(OH)3なる形の化合物は得られず,Cr2O3nH2Oが普通であり,これを水酸化クロム(Ⅲ)と呼んでいる。クロム(Ⅲ)塩水溶液に水酸化アルカリを加えると得られる灰緑色沈殿。水溶液からの沈殿はコロイド状となってろ過しにくい。水に不溶。つくったばかりでは酸によく溶けるが,放置したものは溶けにくくなる。両性水酸化物で,水酸化アルカリ水溶液に溶けて亜クロム酸塩をつくる。熱すると脱水して酸化クロム(Ⅲ)Cr2O3となる。緑色顔料として知られるビリジアンviridianはCr2O3・2H2Oであるとされる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水酸化クロム」の意味・わかりやすい解説

水酸化クロム
すいさんかくろむ
chromium hydroxide

クロムの水酸化物であるが、二価および三価クロムの化合物が知られている。

(1)水酸化クロム(Ⅱ) 化学式Cr(OH)2、式量86.2。空気を断ったクロム(Ⅱ)塩水溶液にアルカリを加えて得られる黄色沈殿。水素を通じながら硫酸上で乾燥すると褐色粉末となる。水および希酸に不溶。強い還元剤である。

(2)水酸化クロム(Ⅲ) 化学式Cr(OH)3、式量103.03となるが、実際にはこの組成のものを得るのは困難で、クロム(Ⅲ)塩水溶液にアルカリを加えて中性にし、加水分解させると、灰緑色の酸化クロム(Ⅲ)水和物CrO3nH2Oの沈殿を生じ、これを一般に水酸化クロム(Ⅲ)とよんでいる。水に不溶。生成したばかりのものは酸に易溶であるが、長時間放置すると溶けにくくなる。水酸化アルカリには溶ける両性物質。(1)、(2)とも空気中で熱すれば脱水されて酸化クロム(Ⅲ)となる。

[岩本振武]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水酸化クロム」の意味・わかりやすい解説

水酸化クロム
すいさんかクロム
chromium hydroxide

(1) 水酸化クロム (II) ,水酸化第一クロム  Cr(OH)2 。空気を絶って2価のクロム塩水溶液をつくり,アルカリを加えると黄色沈殿として生成。強い還元力がある。 (2) 水酸化クロム (III) ,水酸化第二クロム 便宜上,化学式は Cr(OH)3 と書かれるが,実際には酸化クロム (III) 水和物 Cr2O3・nH2O である。3価のクロム塩にアンモニアを加えれば灰緑色の沈殿として得られる。3水塩 Cr(OH)3・3H2O は青緑色粉末,水に不溶。生成したばかりの水酸化物は酸に溶け,青ないし緑色溶液を生じるが,時間のたったものは酸に溶けにくい。 Cr(OH)3nH2O は漆黒のガラス状の光沢のある粉末。アルコール,パラフィンの脱水素反応の触媒に用いられる。ジニエットグリーン Cr2O(OH) は緑色顔料皮なめし,触媒,媒染剤などとして用いられる。

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化学辞典 第2版 「水酸化クロム」の解説

水酸化クロム
スイサンカクロム
chromium hydroxide

】水酸化クロム(Ⅱ):Cr(OH)2(86.01).空気を遮断したクロム(Ⅱ)塩の水溶液に水酸化アルカリを加えると,黄色の沈殿として得られる.乾燥粉末は褐色.水,希酸には不溶.強い還元剤である.【】水酸化クロム(Ⅲ):Cr(OH)3(103.02).クロム(Ⅲ)塩水溶液に水酸化アルカリを加えると,青緑色の沈殿として得られる.酸,アルカリのいずれにも溶ける.長時間放置すると酸に溶けにくくなる.一般にはCr2O3nH2Oで表されるが,これらを水酸化クロムとよんでいる.酸化クロム(Ⅲ)や他の可溶性クロム(Ⅲ)塩の製造中間体,顔料(ビリジャン)として用いられる.有毒.[CAS 1308-14-1:Cr(OH)3・3H2O][CAS 1308-14-1:Cr2O3nH2O]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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