日本大百科全書(ニッポニカ) 「汎ヨーロッパ主義」の意味・わかりやすい解説
汎ヨーロッパ主義
はんよーろっぱしゅぎ
Pan-Europeanism
ヨーロッパの平和や統合を主張する思想や運動。汎ヨーロッパの思想は古く、宗教改革や主権国家の形成による中世キリスト教世界の解体以後、ヨーロッパ統一を回復しようとするさまざまな試みがあった。これは、オスマン帝国のヨーロッパ侵入に対する防衛のためでもあった。近代に入ると、啓蒙(けいもう)主義的思想家によって、ヨーロッパの恒久的平和維持のための統合が提唱される。19世紀末には膨張主義的大国家計画のためのヨーロッパ統合が求められた。
第一次世界大戦後、疲弊したヨーロッパの復興と繁栄の回復、ヨーロッパの平和のために汎ヨーロッパ運動が広く展開された。オーストリアの政治学者クーデンホーフ・カレルギーは雑誌『パン・ヨーロッパ』(1924)を発刊して、汎ヨーロッパを呼びかけたが、これにこたえて、1924年には汎ヨーロッパ連合が結成され、またヨーロッパ各国に汎ヨーロッパ協会も設立された。1926年には汎ヨーロッパ連合の主催によって汎ヨーロッパ会議が開催された。大戦間の汎ヨーロッパ運動はブリアンをはじめ各国の指導的政治家も参加して、大きな盛り上がりをみせた。クーデンホーフ・カレルギーの構想は、汎ヨーロッパ、汎アメリカ、大英帝国などの五大超国家による世界の安定やヨーロッパの統一による平和維持・経済的繁栄の達成を目ざすものであるが、同時にそのなかにある植民地主義、反共・反ソ的傾向も見逃せない。大戦間の汎ヨーロッパ運動はファシズム、ナチズムの台頭によって崩れ去った。
第二次世界大戦後にも、戦前そのままの運動ではないが、ヨーロッパ統合が提唱された。1946年チャーチルは「欧州合衆国」を呼びかけた。この提唱は実際的成果を生まなかったが、大陸では一連のヨーロッパ統合の動きが具体化される。とくに経済的統合は強められ、1967年ヨーロッパ共同体(EC)、93年ヨーロッパ連合(EU)が発足し、今日、政治的統合に向けての新しい模索が続けられている。
[田北亮介]
『村瀬興雄「西欧統合の歴史とその性格」(『国際問題』1963年4月号所収・日本国際問題研究所)』▽『細谷千博他編著『欧州共同体(EC)の研究』(1980・新有堂)』▽『金丸輝男編『ヨーロッパ統合の政治史 人物を通して見たあゆみ』(1996・有斐閣)』▽『H・ケルブレ著、雨宮昭彦他訳『ひとつのヨーロッパへの道 その社会史的考察』(1997・日本経済評論社)』▽『山本浩、高橋由美子編『ヨーロッパをつくる思想』(2002・上智大学出版会)』▽『堀口健治、福田耕治編『EU政治経済統合の新展開』(2004・早稲田大学出版部)』▽『藤井良広著『EUの知識』(日経文庫)』