日本大百科全書(ニッポニカ) 「注文の多い料理店」の意味・わかりやすい解説
注文の多い料理店
ちゅうもんのおおいりょうりてん
宮沢賢治が生前刊行した唯一の童話集。1924年(大正13)12月、杜陵(とりょう)出版部刊。同題の作品のほか『どんぐりと山猫』『狼森(おいのもり)と笊森(ざるもり)、盗森(ぬすともり)』『烏(からす)の北斗七星』『水仙月の四日』『山男の四月』『かしはばやしの夜』『月夜のでんしんばしら』『鹿(しし)踊りのはじまり』の九編を収める。「古風な童話としての形式と地方色とを以(もっ)て類集した」(自筆広告文)もので、岩手の濃密な風土性を背景に高度な詩情と文明への深い洞察を結実させた幻想的短編集。書名となった作品は、山へ猟に入った2人の紳士が危うく山猫に食われかける恐怖譚(たん)で、人間中心主義に毒された都会文明と放恣(ほうし)な階級への痛烈な風刺が込められている。
[天沢退二郎]
『『注文の多い料理店』(角川文庫)』