日本大百科全書(ニッポニカ) 「天沢退二郎」の意味・わかりやすい解説
天沢退二郎
あまざわたいじろう
(1936―2023)
詩人、評論家、フランス文学者。東京生まれ。東京大学仏文科卒業。3歳から10歳まで満州(現、中国東北地方)の長春(ちょうしゅん/チャンチュン)で過ごす。第二次世界大戦後の1946年(昭和21)に新潟に帰国、翌々年千葉県に転居。中学生時代から宮沢賢治の詩・童話に親しみ、詩作を始める。東大在学中に賢治の影響濃い第一詩集『道道』(1957)を刊行。同人誌『暴走』『×(バッテン)』などに参加、1964年に渡辺武信(たけのぶ)(1938― )、鈴木志郎康らと同人誌『凶区(きょうく)』を創刊。新鮮な衝撃力をもって詩壇に登場し、「60年代詩人」を代表するスター的存在となった。東京大学大学院で中世フランス文学専攻後、パリ大学に留学。詩集に『朝の河』(1961)、『夜中から朝まで』(1963)、『時間錯誤』(1966)、『血と野菜』(1970)、『夜々の旅』(1974)、『les invisibles(目に見えぬものたち)』(1976。第15回藤村記念歴程賞)、『帰りなき者たち』(1981)、『眠りなき者たち』(1982)、『〈地獄〉にて』(1984。第15回高見順賞)、『ノマディズム』(1988)、『欄外紀行』(1991)、『胴乱詩篇(しへん)』(1997)など多数。夢魔が徘徊(はいかい)する不合理で生々しい深みのある詩的空間をつくる。『幽明偶輪歌』(2001)にて第53回読売文学賞受賞。宮沢賢治研究でも活躍し、パリ大学留学中に『凶区』に発表した評論『宮沢賢治の彼方へ』(1967)を刊行し、賢治研究を新しい水準へ高めた。その後『校本宮沢賢治全集』『新校本宮沢賢治全集』の編纂(へんさん)に尽力する。賢治論に『謎解き・風の又三郎』(1991)、『《宮沢賢治》注』(1997)ほかがある。1987年に、過去10年間の功績と『《宮沢賢治》鑑』(1986)の発行に対して岩手日報文学賞賢治賞受賞。2001年(平成13)には、永年にわたり賢治研究に多大な影響を与えた功績により第11回宮沢賢治賞を受賞。また長編童話『光車(ひかりぐるま)よ、まわれ!』(1973)、童話集『ねぎ坊主畑の妖精たちの物語』(1994)などファンタジー作家としても著名であった。
[吉田文憲]
『『現代詩文庫11 天沢退二郎詩集』(1968・思潮社)』▽『『現代詩文庫112 続・天沢退二郎詩集』(1993・思潮社)』▽『『現代詩文庫113 続続・天沢退二郎詩集』(1993・思潮社)』▽『『les invisibles(目に見えぬものたち)』(1976・思潮社)』▽『『帰りなき者たち』(1981・河出書房新社)』▽『『眠りなき者たち』(1982・中央公論社)』▽『『〈地獄〉にて』(1984・思潮社)』▽『『《宮沢賢治》鑑』(1986・筑摩書房)』▽『『宮沢賢治の彼方へ』新装版(1987・思潮社)』▽『『謎解き・風の又三郎』(1991・丸善)』▽『『幽明偶輪歌』(2001・思潮社)』▽『『光車(ひかりぐるま)よ、まわれ!』(ちくま文庫)』▽『『中島みゆきを求めて』(河出文庫)』▽『『《宮沢賢治》注』増補改訂版(ちくま学芸文庫)』▽『ジョルジュ・バタイユ著、天沢退二郎訳『青空』(1998・晶文社)』▽『天沢退二郎訳『ヴィヨン詩集成』(2000・白水社)』