イタリアの作家トマージ・ディ・ランペドゥーザの長編小説。1958年没後刊。物語は1860年、ガリバルディのシチリア上陸に始まり、イタリア統一戦争の動乱期における貴族社会の没落と新興ブルジョアジーの台頭を背景としながら、変わりゆく時代の流れに静かな諦観(ていかん)とともに身をゆだねるシチリアの一貴族の生き方と、その一族の行く末とを、半世紀後の1910年に至るまで描いている。作品は刊行当初からイタリアの国内外で異例の評判をよび、ベストセラーとなったが、一方で、この小説の発刊に際し、現代イタリアの最良の作家であり編集者であったシチリア生まれのE・ビットリーニが、文学的責務に欠ける作品として出版拒否の姿勢を貫いた点も、見過ごせない。1963年ビスコンティによって映画化されて評判をよんだ。
[鷲平京子]
1963年製作のイタリア・フランス合作映画。シチリア生まれの作家トマージ・ディ・ランペドゥーザの同名小説に基づき、ルキーノ・ビスコンティが監督した。1960年ガリバルディのシチリア上陸を背景に、山猫の紋章をもつサリーナ公爵(バート・ランカスター)が時代に取り残されるのを静かに受け容れ、公爵の甥(アラン・ドロン)と新興階級の娘(クラウディア・カルディナーレClaudia Cardinale、1938― )との結婚を祝福する。貴族の没落を描いたため、ミラノ貴族の末裔(まつえい)であるビスコンティ本人の心情が主人公に投影されたものと理解されることが多いが、ネオレアリズモ映画の系譜のなかで歴史劇を成立させたことの意義も見逃せない。カンヌ国際映画祭グランプリに輝くなど高く評価されたものの、テクニラマ(1フレームあたり通常の2倍の面積のネガを用いながら、水平方向にのみ圧縮をかける方式)という特殊な撮影方式を採用したうえに、配給の20世紀フォックス社が英語の短縮版を作成したため、2003年に大がかりな修復作業を経てオリジナル版が復元された。
[西村安弘]
『佐藤朔訳『山猫』(河出文庫)』▽『小林惺訳『山猫』(岩波文庫)』
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…シチリア島の日常会話語を母体とするベルガの詩的散文は,長・短編小説群となって結実し,同じくカターニア市出身の評論家L.カプアーナによって〈ベリズモ(真実主義)〉と規定され,イタリア各地とくに南部諸地域に,リアリズム文学を勃興させ,地方主義文学と呼ばれるにいたった。デ・ロベルトFederico De Reberto(1861‐1926)やL.ピランデロの長・短編小説も,また遅れて長編《山猫》一作を書き残したランペドゥーサGiuseppe Tomasi Di Lampedusa(1896‐1957)も,〈ベリズモ〉の周縁に位置している。 20世紀前半のイタリア文学は,一気に近代化をはかろうとして,〈未来派〉や〈魔法のリアリズム〉などいわゆるモダニズムの運動が顕著で,これらの文学運動はファシズムに同化していった。…
※「山猫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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