山に棲息すると見立てられている大男,あるいは妖怪。山父(やまちち),山童(やまわろ),山大人(やまおおひと),山丈(やまたけ)ともいう。大力で蓬髪。赤ら顔,猿のような化物などというほか,片手片足,一つ目,あるいは足が不自由,片目がきわめて小さいとも伝えられる。里暮しの人々にとって,山は異郷の一種であった。疫病による死者が成仏できずに,山男に化したとも説かれる。山中で仕事をしているところに山男が現れて,人の考えていることを次々といい当てるという昔話がある。これには山彦の要素がうかがえる。また,山男が片目片足であるという点は山の神の伝承と一致する。しかし,山男と出会ったとする体験談には,危害を加えられたと語る例は少ない。むしろ,握飯などのわずかな礼で山仕事を手伝ったり,また猪をくれたりなど,好意的な交渉を語る例が多い。この種の話の背景には,マタギ,山窩(さんか),木地屋などの山間生活者と,里人との交流がうかがえる。
→山姥 →山人
執筆者:粂 智子
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