改訂新版 世界大百科事典 「海産魚」の意味・わかりやすい解説
海産魚 (かいさんぎょ)
marine fish
海水域にすむ魚の総称。淡水魚に相対する語で,海水魚ともいう。外洋,沿岸,内湾,河口,鹹水(かんすい)湖,また表層,中層,底層,また深海,岩礁,サンゴ礁,藻場など,種類によってすむ場所はさまざまであり,また成長に伴い,あるいは季節により,それらの間を回遊するものも少なくない。種類数も淡水魚に比べて著しく多いが,産業的にも漁業,養殖業を含め日本の魚類総生産量のおよそ98%を海産魚が占める。
海水中には塩化ナトリウムをはじめさまざまな無機塩類が含まれ,沿岸水ではやや少ないが,外洋水では塩類総濃度がおよそ3.5%に及ぶ。その浸透圧濃度は1076ミリオスモル(mOsm)であるのに対して,海産魚の体液のそれは430mOsm程度である。したがって,海産魚ではナメクジに塩をかけた場合と同じように,えらや口腔粘膜などの半透膜を通じ,体内の水分が絶えず外へ失われ,脱水状態になる危険にさらされていることになる。これに対応して海産魚はつねに海水を飲んで腸壁から水とNa⁺,K⁺などの1価イオンを吸収して,失われる水分を補い,同時に過剰の塩類はえらの塩類細胞と泌尿系から排出して,体内の浸透圧濃度をほぼ一定に保っている。海産魚のこれらの浸透圧調節には間腎腺から分泌されるコルチソールというホルモンが支配的影響を及ぼしている。
海水の塩類濃度は場所によって異なり,また水の蒸散量,降水量,河川水の流入量などによっても変動するが,そのような塩分変化に適応する能力は魚の種類によって異なる。ウナギ,ボラ,マハゼのように広い範囲の変化に耐えられるものを広塩性魚,これに反して多くの外洋性回遊魚などのように狭い範囲の変化にしか耐えられないものを狭塩性魚という。
→魚類
執筆者:日比谷 京
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報