日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナメクジ」の意味・わかりやすい解説
ナメクジ
なめくじ / 蛞蝓
Japanese native slug
[学] Incilaria bilineata
軟体動物門腹足綱ナメクジ科の動物。無殻の陸生貝類で、日本全土のほか、アジア大陸に広く分布し、菜園や、庭園の低木、石の下などにすみ、家の湿った台所などにも好んで侵入する。体長6センチメートル、体幅1センチメートルに達し、灰褐色の地に、暗黒色の小斑(しょうはん)を散らしていて、体の前端から後端にかけて3本の黒帯が走っている。腹面は全長にわたって黄白色の足裏となる。頭部には2対の触角があり、背面側にある大触角の先端に目がある。また触角右後方に空気呼吸をする気孔がある。体表には網目状の細かいしわがあって、つねに粘液で湿っている。はった所には銀色の粘液の跡が残るのはそのためである。高温多湿のとき、とくに夜間に活動し、野菜や花壇、果樹に被害を与える。雌雄同体であるが、2個体が絡み合って生殖物質の交換を行い、初夏に朽ち木の洞や石の下などに白く球形の卵を数十粒固めて産む。卵からは親と同じ型をした稚ナメクジとして孵化(ふか)するが、成長は速く、孵化の翌年産卵して死ぬので、寿命は1年である。
ナメクジを駆除するのに塩を振りかけると体が溶けるといわれているが、これは浸透圧の関係で体内の液が外に出て体が縮むので、溶けるわけではない。多くの場合ナメクジはこのような方法では死なず逃げ出すので、駆除には集めて焼くのがよい。また、ナメクジを生(なま)のままで飲むと声がよくなるとか、病気が治るという迷信があるが、場合によっては寄生虫の感染のおそれもあるし、一般に不潔な所で生活をしているので、このようなことは避けたほうがよい。現在のところナメクジによる確実な薬効は証明されていない。
近縁種のヤマナメクジI. fruhstorferiは山地にすむ大形種で、体長15センチメートル近くにもなり、濃褐色である。近年各地の庭園などにみられる、体前方に外套膜(がいとうまく)に包まれた小さな笠(かさ)形の貝殻をもっているコウラナメクジ(別名キイロナメクジ)Limax flavusやニワコウラナメクジMilax gagatesなどはヨーロッパ原産で、観賞用植物か果樹などについて日本に移入したものと思われる。
なお、徳之島以南の熱帯地方にすむアシヒダナメクジLaevicaulis alteは、ナメクジ様であるためこの名があるが、分類学上は後鰓亜綱(こうさいあこう)収眼目に属し、有肺亜綱柄眼目に含まれる真のナメクジ類との類縁は遠い。
[奥谷喬司]