家庭医学館 「炎症性乳がん」の解説
えんしょうせいにゅうがん【炎症性乳がん Inflammatory Breast Cancer】
はっきりとしたしこりを乳房(にゅうぼう)に触れない、発赤(ほっせき)(皮膚が赤くなる)・腫脹(しゅちょう)(腫(は)れ)を特徴とする乳がんの特殊な型です。
日本では、全乳がん中の1%くらいで、他の乳がんと同様に、40~50歳ごろによく発病します。
[症状]
症状としては、乳房の皮膚が広い範囲で赤く腫れ、オレンジ皮様皮膚(かわようひふ)とか、豚皮膚様(ぶたひふよう)といわれるように、皮膚がむくんで毛穴が目立つようになります。皮膚が厚ぼったくなるので、乳腺内(にゅうせんない)のしこりは触れにくく、乳房全体がひとつのかたい塊(かたまり)のように触れます。
[検査と診断]
診断の第一は、病理学検査です。乳房の皮膚の一部を採取し、顕微鏡で調べると、皮膚および皮下のリンパ管に、がん細胞が著しく入り込んでいることが観察されます。
乳がんの診断に有効なマンモグラフィーでは、ほとんどしこりは写しだされません。しこりが触れず、X線検査で陰性だからといっても、安心はできません。必要に応じて、超音波検査など他の検査法も併用すべきでしょう。
[治療]
かつては乳房切除術がおもに行なわれていましたが、その結果は惨澹(さんたん)たるもので、20年前の全国集計では100%に再発がみられ、5年間生存できる率はわずかに17%でした。
しかし現在は、抗がん剤による術前化学療法を中心にして、放射線療法や乳腺の動脈に直接抗がん剤を注入する動脈注入療法などと、手術を組み合わせた複合療法を行ない、術後も継続した化学療法を行なうことによって、5年生存率も50%前後にまで改善されました。
乳房に、ただれや発赤を見つけたら、単なる乳腺炎だろうと思わず、すぐに乳腺外科専門の医師の診察を受けるべきです。