無下(読み)ムゲ

デジタル大辞泉 「無下」の意味・読み・例文・類語

む‐げ【無下】

[名・形動ナリ]
まちがいなくそれであること。また、そのさま。
「今は―の親ざまにもてなして扱ひ聞こえ給ふ」〈・薄雲〉
まったく問題にもならないこと。また、そのさま。論外。
「―の末に参り給へりし入道の宮に」〈・若菜上〉
まったく劣っていること。どうしようもないこと。また、そのさま。
自害をもせで、尼公に属してかひなき命生きんと嘆くこそ―なれ」〈古活字本平治・下〉
はなはだしく身分の低いこと。
「―の者は手をすりて拝む」〈宇治拾遺・一一〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「無下」の意味・読み・例文・類語

む‐げ【無下・無気】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 ) ( 「むげの」の形で連体修飾に用いられることが多く、また、「むげに」で副詞として用いられる。→むげに )
  2. それ以外の何ものでもないこと。疑う余地なくそれであること。
    1. [初出の実例]「ことの心知る人はすくなうて、うときもしたしきもむげの親ざまに思きこえたるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)胡蝶)
  3. 取り上げて問題にしようもないこと。話にもならないこと。また、味気なく、つまらないこと。論外。
    1. [初出の実例]「むげの末に参り給へりし入道の宮にしばしはおされ給にきかし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
  4. 事態の程度がひどくて、あきれたり、非難したりしなければならないこと。全くひどいこと。あんまりなこと。
    1. [初出の実例]「かくむげになりぬれば、ただあづかりのもののよろこびまてやみぬ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
    2. 「自害をもせで、尼公に属してかひなき命いきんと歎くこそ無下なれ」(出典:平治物語(1220頃か)下)
  5. はなはだしく身分が低いこと。卑しいこと。
    1. [初出の実例]「これを、むげの者は、手をすりておがむ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一一)
  6. はなはだしく冷酷、残酷であること。
    1. [初出の実例]「わたし守、聞きもいれでこぎいづ〈略〉いかにかくは無下にはあるぞ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)三)
  7. 悲惨であること。みじめであること。あわれであること。
    1. [初出の実例]「弓矢取るものの、矢一つにて死するはむげなる事ぞ」(出典:義経記(室町中か)四)
  8. 役にもたたないこと。無意味であること。むなしいこと。無駄。
    1. [初出の実例]「此心ざしむげ成もひと役のかくる所なりと、其夜思ひのたけをはらさせしとなり」(出典:評判記・難波立聞昔語(1686))

無下の語誌

「むげなり」に関し、平安時代末の「色葉字類抄」には「無気 ムケナリ 無下 同」と「無気」「無下」の字をあてているが、共に同じ意味のことばであるかどうか明らかでない。中世以降の文献漢字で書かれる場合、意味の自然さからか、「無下」の表記が普通である。なお、「無下」はいわゆる和製漢語である可能性が強い。とらわれることなく自由である、という意味を表わす仏語「無碍(むげ)」に語源を求める説もある。

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