辞書。著者は橘忠兼。平安時代の末期に作られた。日本の古辞書のうちで,最も注意すべきものの一つ。これまでの辞書が漢字を引いて,そのよみかたを求める体裁のものであったのに対し,ことばからこれにあてる漢字を求めるようになっている。ことばの配列をいろは順にしたことは,その後数百年にわたる辞書の組織のもととなった。2巻本と3巻本と10巻本がある。2巻本は3巻本の稿本とみられる。10巻本は,鎌倉時代になってから大増補されたもので,内容ははなはだ豊富であるが,それだけに,3巻本と10巻本とは,それぞれに,別個の独自の価値をもつ。10巻本は,江戸時代の初期に当時の学界に紹介され,従来〈伊呂波字類抄〉の名で引用されているのは,この10巻本である。3巻本のほうは,昭和年代にはいって初めて複製本で世に知られ,前田本(中巻を欠く)と,それを補う黒川本との二つがある。
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執筆者:亀井 孝
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院政期成立の国語辞書。編者は橘忠兼(たちばなのただかね)。2巻、3巻、10巻(通例『伊呂波字類抄』と表記)の諸本がある。平安末期の日常実用の語を主に、漢文訓読語をもあわせて、広く和語・漢語を採録。語の頭音によって全体を伊呂波47篇(へん)に分け、さらにその各篇について、意義分類に従って天象・地儀など21部をたてて収録語を類聚(るいじゅう)。当時普通に使用された漢文体の文章(漢詩文、記録、文書など)を作成するうえで心得るべき語、漢字表記を中心に、とくに漢語が豊富に集録されている点に特色がある。当代における国語の漢字表記の規範を知るうえで、また当時の社寺、国郡、姓名など、固有名詞の漢字表記の読み方の手掛りが得られる点で重要な文献である。『世俗字類抄』『節用文字』は本書と祖本を同じくする。
[峰岸 明]
内膳司典膳の橘忠兼が編纂した平安後期の辞書。当初の体裁を伝える天養~長寛年間(1144~65)成立の2巻本,それに補訂を加えた天養~治承年間(1144~81)成立の3巻本,鎌倉初期に大幅に増補した流布本の10巻本「伊呂波字類抄」がある。日常使用された和語・漢語をいろは順に48編に区分し,さらにそれぞれを天象・地儀・植物・動物・人倫・人体・人事・飲食・雑物・光彩・方角・員数・辞字・重点・畳字・諸社・諸寺・国郡・官職・姓氏・名字の21部に序列し,和訓(反切)・用法などを示す。寺社の由来・縁起にも詳しい。当時の漢字表記を知りうる一級史料。
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… 平安時代の韻書には《東宮切韻》のほかにも《季綱切韻》《孝韻》《小切韻》などがあったようであるが,散逸した。また,院政時代には《色葉字類抄(いろはじるいしよう)》が出た。異本が多いが,3巻本(〈前田本〉〈黒川本〉など)は橘忠兼の著で,天養~治承期(1144‐81)ころの間に成立したといわれている。…
※「色葉字類抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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