化学辞典 第2版 「熱陰極電離真空計」の解説
熱陰極電離真空計
ネツインキョクデンリシンクウケイ
hot cathode ionization gauge
電離真空計のなかでもっとも普通に用いられているもので,一般に電離真空計といえばこの熱陰極電離真空計をさすことが多い.これはタングステンフィラメントを陰極とした一種の三極真空管である.フィラメントの外側にグリッドがあり,グリッドはフィラメントに対して150~200 V 陽圧になっており,フィラメントより電子を引き出す役目をしている.引き出された電子流の一部はグリッドに捕まるが,大部分の電子はグリッドの間げきを通り抜けてプレートに向かう.しかし,このプレートは陰極よりも低い電位にあるため,電子はプレートに行かずにふたたびグリッドに引っ張られて陰極のほうに戻る.こうして電子はプレートと陰極との間を振動して電子の走行距離を増し,電子の電離効果を高めている.電子にたたかれて電離した気体イオンは,フィラメントに対して,20 V 程度負の電位にあるプレートに流れる.このイオン電流は気体の分子密度に比例するので,このイオン電流によって真空度を知ることができる.実際に使用されている真空計の電子回路は,真空度の測定の範囲によって微少電流の増幅回路,電子電流の自動制御回路などが組み込まれているのが普通である.一般の熱陰極電離真空計の測定範囲は,10-1~10-4 Pa 程度の測定に適しているが,この真空計の欠点としてはフィラメントの損傷が低圧のときにとくに大きいことである.10-5 Pa 以上の高い真空では,グリッドから出る軟X線がプレートに衝突して光電子を放出し,この光電子流がイオン電流に加算されて本当の真空度を示さないので,この影響を少なくするための工夫を加えた真空計にBayard-Alpert型真空計がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報