翻訳|vacuum gauge
真空計は真空の程度(真空度)を測る計器であるが,真空度は気体の圧力で表示することになっているので,JISでは,真空計を〈大気圧より低い気体・蒸気の圧力を測定する計器〉と定義している。真空といっても,物理的あるいは工学的には,物質のまったく存在しない空間は実現できていない。通常は,大気圧以下の圧力の気体で満たされている特定の空間の状態を,すべて真空と呼んでいる。地上でいう真空との対比から,宇宙空間の状態も真空と呼ばれるが,大気圧の状態とどこで区別するべきか明らかでない。真空の程度を示すのは,気体の圧力が0の状態を基準にとった絶対圧による。単位は,国際単位系ではN/m2が基本となる。これをPaで表す。真空技術の分野で古くから親しまれてきたのはトルTorrまたはmmHgである。1Torr=1mmHgであり,760分の101325Paと定義されている。真空の程度を,大気圧を基準にした負圧で示したり,気体の減少の度合を百分率で表示したりすることも行われるが,一般的ではない。
大気圧から,だいたい102Pa(約1Torr)までは,U字管に液体を入れてその液面の高さの差から圧力を読みとるマノメーターmanometerや,ブルドン管などの弾性変形量から内外圧力差を読みとる真空計が多く使われる。これ以下の圧力領域(中・高真空領域)では,圧力の直接測定は容易でなく,気体の圧縮操作を介在させたマクラウド真空計McLeod gaugeや,気体の圧力と関数関係にある他の物理量,例えば分子密度,入射頻度,粘度,熱伝導度などの測定から圧力を間接的に求める真空計による。実際に使用されている主要な真空計を表に掲げる。
マクラウド真空計では,図1に示すように,水銀を上昇させ,枝分れ部Lで圧力Pの気体を一定体積Vだけ分かちとり,次いで毛管Bの中に圧縮する。この操作により上昇した圧力pは,毛管降下量を補償するために設けられた内径の等しい2本の毛管を使い,その液面の高さの差hから読みとる。圧縮された気体の体積は,毛管の断面積がa,水銀面から封管の先端までの距離がxであればaxであり,ボイルの法則によるPV=paxとp=P+hρg(ρは水銀の密度,gは重力の加速度)の関係から,P=hρg・ax/(V-ax)が求まる。ピラニ真空計Pirani gaugeというのは,図2のように,細い金属線を張っただけの単純な構造をしており,低圧領域で気体の熱伝導が圧力によって変わる現象を金属線の電気抵抗の変化から読みとる。金属線は通常タングステンや白金の細線で,電気的に加熱してある。圧力の減少で金属線に飛来して熱エネルギーを運び去る気体分子の数が減り,つまり気体の熱伝導が小さくなって金属線の温度は上昇し,その結果電気抵抗は増す。ピラニ真空計の測定子を一辺に含むホイートストンブリッジを作り,その不平衡電流を測定する方法と,不平衡電流が0になるように金属線に流す電流を調整して金属線をつねに一定温度に保つ方法とがある。後者では線に流す電流を読んでおり,通常定温型と呼ばれ,工業計器に広く使われている。金属線の温度変化を線に融着した別の熱電対によって読みとることもできる。これを熱電対真空計と呼ぶ。高真空領域では,金属線の支持端からの熱伝導や放射による熱損失のほうが相対的に大きくなり,その変動に信号分が覆われるようになる。高真空領域では,熱電子によって気体分子を電離し,その結果生成したイオンの量を測るという方法が一般的である。これを電離真空計ionization gaugeという。やや高い圧力まで測定できるものをシュルツ型といい,超高真空領域まで使用できるよう改善されたものをB-A型と呼ぶ。通常型の電離真空計は三極真空管と同様の構造をしており,中心部に熱電子を出すための熱フィラメント,その周囲には熱電子を加速するために100~200Vに保たれたグリッド,そしてさらに生成イオンを集める目的で-15~-30V程度に保たれた円筒状コレクターから成り立っている。コレクターで測定されるイオン電流は,電子電流が一定ならば気体の圧力に比例する。熱電子がグリッドで捕らえられるとき軟X線を発生し,この軟X線は円筒状コレクターを照射して光電子を放出させる。この光電流はイオン電流と同方向に流れる一定電流のため,通常型電離真空計では測定下限が生じ,超高真空を測定することができない。これを軟X線効果という。図3に示すように,フィラメントを最外部に置き,軟X線の照射量をできるだけ減少させるため針状にしたコレクターを中心部に配置する逆転型構造のものがB-A型である。この方式によって10⁻8Pa(10⁻10Torr)程度の超高真空まで計測が可能になった。熱電子によらずに,磁場中の放電によって気体分子の電離を行い,イオンを得るものをペニング真空計という。工業計器としては使われることが多いが,精度がない。
U字管マノメーターやマクラウド真空計のように,気体の圧力を測定する方式以外の真空計では,つねに圧力に対する校正が必要である。通常は,U字管マノメーターやマクラウド真空計を基準に選ぶ。高真空領域の真空計の標準は,工業技術院電子技術総合研究所にある標準マクラウド真空計,あるいは標準圧力発生装置によることとしている。世界各国は高真空領域の真空計の標準を個々別々に維持しており,相互に比較評価するには至っていない。ピラニ真空計や電離真空計のように,気体の圧力に比例する他の物理量を測定している場合,気体の種類による感度の違いが生ずるので,基準に窒素ガスを使うことになっている。窒素ガスに対して校正された電離真空計でヘリウムガスの圧力を測定すると1/5~1/6程度の指示しか得られない。分子量が大きいものでは真の圧力以上の圧力を指示することが多い。気体の種類と組成が不明であれば,あらかじめ校正することも,真の圧力に換算することもできない。単に窒素ガスで校正された読みを指示したにすぎないわけで,これを窒素相当圧と呼ぶこととしている。
混合気体の成分の分圧を測定する真空計を分圧真空計という。成分の組成とその分圧を直接測定できる測定器はできていない。現在,実用されている分圧計のほとんどは質量分析計の一種である。熱電子によって気体分子を電離し,生じたイオンをその電荷と質量の比に応じて分離計測する。得られたデータから成分の組成と分圧とを算出することは,原理的には可能であるが,精度が悪く,ほとんど行われていない。定性的な,あるいは半定量的な分析に使用されるので,真空分析計vacuum analyzer,あるいは残留ガス分析計residual gas analyzer(RGA)と呼ばれることが多い。
執筆者:中山 勝矢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
絶対真空に近い低圧力を精密に測定するための計器。広義では、大気圧より低い圧力を測定する圧力計全体をよぶことも多い。真空の度合いを真空度といい、絶対圧力の値で表す。国際単位系(SI)の単位はパスカル(Pa)であるが、習慣的にトルTorrまたは水銀柱ミリメートルmmHgを用いる場合もあり、パスカルとの関係は、1トル(1水銀柱ミリメートル)=133.322パスカルである。
真空計は測定原理によって多くの種類に分類され、測定の目的や真空度の範囲に応じて使い分けられる。圧力が比較的高い低真空領域では、力学的原理による一般の圧力計を真空測定用に改造した型のものが多く用いられる。なかでも、気体を圧縮して圧力を拡大する機構を備えた水銀柱圧力計であるマクラウド真空計が代表的で、圧縮比をあらかじめ求めておけば真空圧力の絶対値が得られることから、ほかの真空計を校正するための標準としても用いられる。実用的な測定範囲は普通1~10-4パスカルである。
10-4パスカルより高真空(つまり低圧力)の領域では、真空中の気体分子を電子線や放射線によってイオン化し、その密度をイオン電流によって測定する電離真空計が効果的であり、精度が高く応用範囲が広い。代表的な器種である熱陰極型電離真空計の検出器は、電子を放出するフィラメント、電子を加速するグリッド(正電位)およびイオン電流を測定するためのイオンコレクター(負電位)を備えた管球である。この計器の直接の出力であるイオン電流と真空圧力との関係は、管球中の電場の強さ、電極の形状、気体分子の種類などによって大幅に異なるため、絶対圧力を測ることができる他の真空計を用いて目盛りを校正することが必要である。通常の電離真空計の測定範囲は10-1~10-6パスカル程度であるが、超高真空測定用に改良されたB-Aゲージ(ビーエーゲージ、ベアード・アルバート真空計)を用いれば10-8パスカルまで測定できる。
簡単な操作で常圧から10-4パスカル程度までの真空を連続測定する目的で、気体の熱伝導を利用するもの(ピラニ真空計など)、気体中の放電を利用するもの(フィリップスゲージまたはペニングゲージ)が用いられる。
以上のほかに真空計の原理として、気体分子の熱運動による力を利用する(クヌーセン真空計)、気体の粘性を利用する(ラングミュア‐ダッシュマン真空計)などがあるが、これらはおもに研究用である。
[三井清人]
希薄気体の圧力を測定する装置をいう.真空計のなかには,
(1)液柱マノメーターや隔膜型マノメーターのように圧力を直接測るもの,
(2)気体の状態方程式を応用するマクラウド真空計,
(3)気体の諸性質の圧力依存度を利用する粘性真空計,熱伝導真空計,
(4)分子密度を測定する電離真空計,
(5)ラジオメーターの原理を応用したクヌードセン真空計,
(6)質量分析器,
などがある.代表的な真空計の測定範囲および主としてその使用分野を表に示す.[別用語参照]真空度
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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