日本大百科全書(ニッポニカ) 「球後視神経炎」の意味・わかりやすい解説
球後視神経炎
きゅうごししんけいえん
眼内視神経炎(乳頭炎)に対し、眼球より後方にある視神経炎をいう。突然あるいは緩徐に視力を失い視野が欠損するが、初期には眼底に炎症症状を示さないのが特徴である。片眼または両眼のことも多く、眼球の後方、すなわち眼窩(がんか)内、視神経管内、頭蓋(とうがい)内の視神経交叉(こうさ)部(視交叉部)などに限局し、あるいは広範囲に散在して炎症のおこることがある。原因としては、いろいろな神経毒による中毒、細菌やウイルスの感染、脳炎や髄膜炎の波及、副鼻腔(びくう)炎、貧血、虚血、ビタミン欠乏、妊娠、授乳などのほか、多発性硬化症など神経線維の構成要素である髄鞘(ずいしょう)が変性脱落する脱髄疾患、遺伝性のものがあげられるが、原因不明のものも少なくない。すなわち臨床例中、原因不明のものが40~60%にも及ぶといわれ、このなかに、いろいろと脳神経脊髄(せきずい)症状を伴い、自発的に寛解したり再発することを繰り返す場合があり、多発硬化とよばれる。治療法としては、急性期に対してはステロイド剤の投与を行い、副鼻腔炎や髄膜炎などに対してはすべて原因療法を主とし、そのほか感染症の治療や大量のビタミンA・B1・B12の投与、授乳の停止などを行う。視交叉部くも膜炎の症状がみられるものには開頭手術も行われ、有効である。
[井街 譲]