労働科学、生活科学などによって理論的に接近して得た生計費をいう。総務省(旧総務庁)の「家計調査」や内閣府(旧経済企画庁)の「消費動向調査」などのように、実際の家計調査による生計費を実態生計費というのに対比される概念である。理論生計費の算定方法には、家計費目のすべてにわたって理論的な標準を決め、それを積み上げて生計費を算定する全物量方式と、飲食物についてだけ理論的に算出し、これをもとにエンゲル係数から逆算して生計費を算定する半物量方式とがある。
わが国における理論生計費の例としては、日本労働組合総評議会(総評)がかつて労働者の賃上げ要求額の根拠として示した「理論生計費」、人事院や地方公共団体の人事委員会が公務員給与改定勧告に付随して示す「標準生計費」、1971年(昭和46)に船橋尚道(なおみち)が文化的内容を盛り込んだ4人家族の生計費として設定した「基準生計費」などがある。諸外国においても各種の理論生計費が作成され、公的扶助の最低生活費や労働組合の賃金要求の基準などに利用されている。しかし、理論生計費には、その大きさや内容が想定する生活状態をどこに求めるかによって異なってくること、生活内容の多様化や消費構造の変化に対応しきれないこと、などの問題点も指摘されている。
[小泉幸之助]
実際の家計調査による生計費を実態生計費あるいは経験的生計費というのに対して,ある理論的基準,つまり,栄養学,生理学,医学あるいは経済学などを含む労働科学的な計測にもとづいて算定される生計費を理論生計費という。その算定方法には,全物量方式と一部物量方式とがある。前者はマーケット・バスケット方式とも呼ばれているが,標準的世帯が一定の標準的生活水準を維持していくのに必要な飲食費,衣料費,住居費およびその他の生活必要費用を算出し,これをもとにして生計費を算定するという方式である。
後者はエンゲル方式ともいわれ,基本的にはさきの飲食費をエンゲル係数(勤労世帯の家計支出のうちで飲食費の占める比率を百分比で表したもの)で除して生計費を求める方式である。
理論生計費は公的扶助における最低生活費や労働組合の賃金要求の基準の作成などに利用されているが,算定上,たとえばマーケット・バスケット方式については社会生活の内容の多様化に対応していくことの困難さ,エンゲル方式については飲食費だけを基準とすることによる偏向などの注意すべき問題が多々ある。
執筆者:貝山 道博
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…しかし,租税や社会保障負担のような非裁量的支出を含むべきか否か,土地・家屋のような物的資産への支出をどの程度まで考慮すべきか,さらに貯蓄の中に将来の生計費とみなされるべき部分はないか等の問題がありうる。生計費には,現実の家計が支出した費用である実態生計費と,理論生計費がある。後者は,家計が生活を営むための最低限の生活様式を,生理学的・社会学的・歴史的見地から定めた場合,それに要する費用を指す。…
… 生計費指数の計算にあたっては,消費される財・サービスの価格だけでなく,それらの支出構成も考慮されなければならない。指数算出のための生計費の算出方法としては,(1)実際の家計調査の結果得られた消費支出の内容にもとづいて行う方式である実態生計費あるいは経験的生計費と,(2)ある理論的基準,つまり,栄養学,生理学および経済学などを含む労働科学的な計測にもとづいて行う方式である理論生計費とがある。物価指数【貝山 道博】。…
※「理論生計費」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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