琴学(読み)きんがく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「琴学」の意味・わかりやすい解説

琴学
きんがく

中国古来の七弦琴 (→ ) の音楽を追究する過程でしだいに体系化された学問。「琴道」とも称する。中国では琴を君子修養の道具として尊重してきたが,その後儒教道教などの思想と結合して,理論,弾法,作法などに厳しい規則を設け,独特の思想を形成した。ここでは,琴は単に弾奏することよりも,幽玄な琴趣を悟ることを第1の目的とする。そのためには,騒がしい俗人の間で琴を弾じるよりも自然の静寂のうちに弾じるほうが好ましいとされた。こうした思想は明代にいたって大成したが,音楽的にも明代において完成したといえ,創作曲数,琴譜の刊行数は明代が最も多い。したがって記譜法も発達し,現存する最古の琴譜『碣石調幽蘭譜 (けっせきちょうゆうらんふ) 』が文章で奏法を記すのに対し,宋以後明代における記譜法は,手法を漢字の略字体でさまざまに組み合わせるなどした減字譜を用い,複雑な奏法をひと目で読み取れるように工夫した。減字譜で記される古い例に南宋の姜 夔 (きょうき) の『古怨』があり,以後明代において 300曲以上の琴曲が作曲,記譜され,多くが現存する。明代以後の琴曲には自然を題材とするもの,あるいは俗世間を離れた隠遁生活を嘆美するものが多い。琴曲は古くは歌詞を伴った琴歌がよしとされたが,しだいに器楽独奏曲として発達した。しかし,琴譜には歌詞を併記するものもあり,また各曲が標題を有して,その曲の内容を示唆している。現在も広く演奏されるものに『陽関三畳』『平沙落雁』『梅花三弄』『高山流水』『長門怨』などがある。日本には奈良時代に琴が伝えられ,平安時代にも演奏されていたことは明らかになっているが,その実態は未詳。盛んになったのは,延宝5 (1677) 年に明末の兵乱を避けて日本に帰化した僧東皐禅師 (心越 ) が,徳川光圀に迎えられ水戸で琴学を教授してからであり,18世紀後半には心越の流れをくむ多数の人材が輩出。心越の伝譜は『東皐琴譜』として広く流布している。

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世界大百科事典(旧版)内の琴学の言及

【琴】より

…減字譜の発達につれて多数の琴譜が編纂刊行されて,明代には300曲以上の琴曲が創作された。 また儒教思想を反映する〈琴道〉とか〈琴学〉とか称せられる琴楽の理論や思想も明代に至って大成した。清代は琴譜の研究・編纂が盛んであるが創作は明代に及ばない。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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