デジタル大辞泉 「琴」の意味・読み・例文・類語
きん【琴】[漢字項目]
〈キン〉
1 弦楽器の一。古代中国で、七弦のこと。「
2 弦楽器。また、鍵盤楽器の類。「月琴・提琴・風琴・木琴・洋琴」
〈こと(ごと)〉「琴歌・
[難読]
( 1 )大陸から渡来した「琴」の字音語であるが、のちに雅楽の楽器に組み込まれ、文選読みで「きんの琴(こと)」ともいうようになった。中国では最高の徳義性を備えた楽器として尊重され、その上、孔子伝説や竹林の七賢の一人嵆康の広陵散伝説の影響もあってか、日本では村上朝までは上流貴族の修得すべき教養とされた。
( 2 )「枕草子」によると琴(きん)の奏法を修得することが、貴族女性が皇室に入内するための条件の一つであったことが知られ、藤原道長も自らの宝器贈与の一つにこの楽器を加えている。
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中国の撥弦楽器,七弦琴ともいう。細長い胴面に水平に弦を張ったロング・チター属(琴・箏類)の代表的楽器。朝鮮,日本にも伝わった。日本では琴の字を〈こと〉とも読み,弦楽器の総称として用いられたり,箏(そう)を指していうことがあるが,琴(きん)と箏は別種である。
琴は表側の槽(そう)に桐,裏板に梓(あずさ)を用い,これらを焼いて漆を塗り胴を作る。古くは長さ3尺6寸6分(約120cm),広さ6寸(約18cm),現在は長さ約125cm,頭部の幅約20cm,尾部の幅約16cm。7本の絹弦を水平に張り,裏板の雁足(がんそく)に巻きつけてとめる。演奏者からみて表板の向こう側に13個の丸い徽(き)(暉)をはめこみ,それを目安にして左手で弦を按じて右手で奏する。古い琴には表面の漆に種々の断紋(ひびわれ模様)が生じ,梅花断,牛毛断,流水断,蛇腹断などの名称が与えられ,美術的にも珍重される。
奏法は楽器の頭部を右にして台の上に置き,軫(しん)(糸巻)をまわして調律し,左手の小指を除く4指で弦を押さえ,右手の同じ4指で奏する。散音(開放弦),按音(左手で弦を押したときの音),泛音(はんおん)(ハーモニックス)の3種の音を用い,複雑な技法を駆使して音曲を奏する。七弦琴には独特の記譜法である減字譜がある。減字譜とは,各指や手法を表す漢字を減じた記号と徽と弦の順位を示す数字とを組み合わせて作った奏法譜である。隋・唐時代には数種の手法書,手勢譜が著されたが,現存する最古の琴譜である六朝末期の《碣石調幽蘭(けつせきちようゆうらん)》(《幽蘭琴譜》ともいう)は,文章形態で奏法を記している。減字譜の最古の例は,南宋の姜夔(きようき)(白石道人)(1155?-1231)の《古怨》である。
琴楽の歴史は古く,太古の神話的人物である神農,伏羲(ふくぎ)などに結びつけられている。舜が琴を弾じて南風の詩をうたったとか,周の文王,武王が1弦ずつ増して七弦になったとかいわれる。《詩経》で琴をうたっていることから周代にはすでに琴が存在したことがわかり,また孔子はこの楽器を愛用し,みずからも曲を作った。漢代には儒教の思想と共に琴は修養の具として君子,貴人の間で広く用いられ,蔡邕(さいよう)(132-192)は《琴操》を著した。しかしこのころは琴歌が多く複雑な技巧を駆使する器楽曲は少なかったと思われる。〈竹林の七賢〉の一人魏の嵆康(けいこう)に至って芸術本位の琴曲が盛んになり,《広陵散》のような大曲が弾かれるようになった。以後琴楽は民間知識人の高尚な芸術として発展し,唐代には雷氏のように著名な琴の製作者も現れた。減字譜の発達につれて多数の琴譜が編纂刊行されて,明代には300曲以上の琴曲が創作された。
また儒教思想を反映する〈琴道〉とか〈琴学〉とか称せられる琴楽の理論や思想も明代に至って大成した。清代は琴譜の研究・編纂が盛んであるが創作は明代に及ばない。清の張鶴編の《琴学入門》は有名な琴譜であり,現代に伝わる琴曲のもとになっているものも少なくない。琴楽には地域による流派があり,同名曲でも流派や譜本によって音楽的に異なる場合が多い。20世紀に至り琴楽は衰微したが,現在は北京の文芸研究院音楽研究所や中国音楽学院,北京,上海など各地の古琴研究会が中心になって琴楽の保存普及,新作の普及に努めている。
琴は奈良時代に日本にも伝わり,平安中期まで貴族に愛用されたようであるが音楽的には定着しなかった。楽器が正倉院などに保存されている。1677年(延宝5)日本に渡来した明僧東皐(とうこう)禅師心越によって水戸光圀のもとで琴楽が再興され多数の琴士を生み,昭和の初めまで心越派の琴楽が存続した。心越派の琴譜は《東皐琴譜》として流布している。
執筆者:三谷 陽子
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中国の弦鳴楽器(チター属長胴撥弦(はつげん)楽器)。七絃(しちげん)琴ともいう。起源は古く、周代にはすでに存在していた。漢代には、儒教の修身具として重んじられ、三国時代以降は、高度な演奏技巧を要する独奏楽器として普及した。宋(そう)代につくられた減字譜(奏法譜の一種)の発達とともに、明(みん)代には全盛期を迎えた。
日本へは奈良時代に伝来したが、平安時代末期には廃れた。当時の楽器が正倉院に残されている。その後、江戸時代に入って1677年(延宝5)に日本に帰化した明の僧心越(しんえつ)が琴楽を再興し、武家や知識層にかなり広まったが、明治時代に急速に衰え、現在では消滅同然となっている。
現在用いられる琴は、全長約125センチメートルの中空の胴をもつ。胴は、頭部が20センチメートルほどで頭部から尾部に向けて細くなり、途中に2か所のくびれをもつ。絹製の7本の弦は頭部の裏側から胴を貫通させて表板上に張り出し、尾部を覆うようにして裏側に回り、二つの糸巻で止められる。演奏には義甲(つめ)を用いず、小指を除く右手の指で頭部近くを撥弦し、左手で弦を押さえ音高を定める。胴の表面には第一弦に沿って丸い徽(き)がはめ込まれており、左手で弦を押さえる目安とする。古来より奏者自身が楽しむ楽器であるため、音量はかなり小さい。
日本では「琴」を「こと」とも読み、古くは弦楽器一般の総称であったが、現在では長胴チター(琴箏(きんそう)類)の総称として用いたり、さらに通俗的には箏のみをさす語として用いられる。しかし厳密には、「きん」という場合には、調弦のための柱(じ)を用いないものをさし、柱を用いる箏とは区別される。なお、リュート属の月琴(げっきん)は、音色が琴と似ることによって命名されたものである。
[藤田隆則]
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…なお辛亥革命以後の中国では,音の高さをアラビア数字に置き換えリズム記号を付した〈簡譜〉(数字記譜法)がかなり広く行われており,西洋の五線記譜法も必要に応じて補助的記号をつけるなどして用いられている。(2)奏法譜 楽器の奏法譜は琴(きん)(七弦琴)の譜が最も古く,初めて楽書類の中に〈琴譜〉がみられるのは,戴氏撰《琴譜》全4巻(《隋書》巻三十二,志第二十七,経籍一)においてである。これは《晋書》に出てくる戴逵(たいき)の撰んだものと考えられ,4世紀末ころのものと推測されるが,記譜の実際はわからない。…
…弦楽器。東アジアの琴・箏類(ロング・チター属)の一種。細長い胴の表面に水平に多数の弦を張り,柱(じ)を立てて調律したもの。…
…歌謡中心の音楽で,伝承歌謡のほかに即興歌謡も多く行われた。楽器は主として伴奏に用いられ,弦楽器には5弦の小型の琴があったが,やがて大型の6弦の琴に変わった。これが和琴(わごん)または大和琴(やまとごと)と呼ばれるものである。…
…中国の撥弦楽器,七弦琴ともいう。細長い胴面に水平に弦を張ったロング・チター属(琴・箏類)の代表的楽器。朝鮮,日本にも伝わった。日本では琴の字を〈こと〉とも読み,弦楽器の総称として用いられたり,箏(そう)を指していうことがあるが,琴(きん)と箏は別種である。 琴は表側の槽(そう)に桐,裏板に梓(あずさ)を用い,これらを焼いて漆を塗り胴を作る。古くは長さ3尺6寸6分(約120cm),広さ6寸(約18cm),現在は長さ約125cm,頭部の幅約20cm,尾部の幅約16cm。…
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