きん【琴】
〘名〙
中国の
弦楽器。桐胴の長さが約三尺六、七寸(約一二〇センチメートル)で、琴柱
(ことじ)を用いず、ふつう七本の弦を張ったもの。
奏法は、
左手の指で、勘所
(かんどころ)を示した一三個の「徽
(き)」の印の位置を押さえ、
右手で弾く。周代(
前一二〇〇‐前二二一頃)以前には、五弦であったというが、それ以後は七弦なので
七弦琴ともいう。
日本に渡来したのは奈良時代といわれ、平安中期よりすたれたが、江戸初期に中国、明
(みん)の
東皐(とうこう)(=心越禅師)によって再興され、一部の
文人墨客の間に伝承された。また、中世以降、琴は他の弦
楽器を指すこともある。
きんのこと。→
琴(こと)。〔十巻本和名抄(934頃)〕
※
源氏(1001‐14頃)若紫「僧都、きむをみづから持て参りて」 〔詩経‐小雅・
鹿鳴〕
[語誌](1)大陸から渡来した「琴」の字音語であるが、のちに
雅楽の楽器に組み込まれ、文選読みで「きんの琴
(こと)」ともいうようになった。中国では最高の徳義性を備えた楽器として尊重され、その上、孔子伝説や
竹林の七賢の一人嵆康の広陵散伝説の影響もあってか、日本では村上朝までは上流貴族の修得すべき教養とされた。
(2)「
枕草子」によると琴
(きん)の奏法を修得することが、貴族女性が
皇室に入内するための
条件の
一つであったことが知られ、
藤原道長も
自らの宝器贈与の一つにこの楽器を加えている。
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デジタル大辞泉
「琴」の意味・読み・例文・類語
きん【琴】
中国古代の弦楽器。長さ約120センチで、弦は7本。琴柱は用いず、左手で弦を押さえ、右手で弾く。上代に日本に渡来したとされる。現在は衰滅。
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琴
きん
中世よりみえる地名で、伊奈郡のうちという。徳治三年(一三〇八)三月八日の宗としいゑ入道譲状写(伊奈郷宗家判物写)にみえる「きぬ」が当地に比定され、「みちのくらさや」の木庭の畠が「宗ひめいし」に譲られた。正中三年(一三二六)「つしまのしまきぬのむら」の田・畠・栗栖をめぐる「ためとき」と「あしミのくんし」の「二らう三らうすゑなか」の相論が和与となっている(同年五月二日「ためとき和与状」同判物写)。
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琴
きん
中国の弦鳴楽器(チター属長胴撥弦(はつげん)楽器)。七絃(しちげん)琴ともいう。起源は古く、周代にはすでに存在していた。漢代には、儒教の修身具として重んじられ、三国時代以降は、高度な演奏技巧を要する独奏楽器として普及した。宋(そう)代につくられた減字譜(奏法譜の一種)の発達とともに、明(みん)代には全盛期を迎えた。
日本へは奈良時代に伝来したが、平安時代末期には廃れた。当時の楽器が正倉院に残されている。その後、江戸時代に入って1677年(延宝5)に日本に帰化した明の僧心越(しんえつ)が琴楽を再興し、武家や知識層にかなり広まったが、明治時代に急速に衰え、現在では消滅同然となっている。
現在用いられる琴は、全長約125センチメートルの中空の胴をもつ。胴は、頭部が20センチメートルほどで頭部から尾部に向けて細くなり、途中に2か所のくびれをもつ。絹製の7本の弦は頭部の裏側から胴を貫通させて表板上に張り出し、尾部を覆うようにして裏側に回り、二つの糸巻で止められる。演奏には義甲(つめ)を用いず、小指を除く右手の指で頭部近くを撥弦し、左手で弦を押さえ音高を定める。胴の表面には第一弦に沿って丸い徽(き)がはめ込まれており、左手で弦を押さえる目安とする。古来より奏者自身が楽しむ楽器であるため、音量はかなり小さい。
日本では「琴」を「こと」とも読み、古くは弦楽器一般の総称であったが、現在では長胴チター(琴箏(きんそう)類)の総称として用いたり、さらに通俗的には箏のみをさす語として用いられる。しかし厳密には、「きん」という場合には、調弦のための柱(じ)を用いないものをさし、柱を用いる箏とは区別される。なお、リュート属の月琴(げっきん)は、音色が琴と似ることによって命名されたものである。
[藤田隆則]
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琴
きん
qin
中国の弦楽器。七弦琴ともいう。東アジアのロング・ツィター属楽器のなかで,箏とともに代表的なもの。起源は,太古の神話的人物,神農,伏羲などにさかのぼり,舜が五弦の琴を弾じて南風の詩を歌ったとか,周の文王,武王が一弦ずつ加えたとかいう伝説が多い。琴は槽をキリ,裏板をアズサでつくり,磯には頸と腰に凹形のくぼみがある。裏板には竜池 (りゅうち) ,鳳沼 (ほうしょう) の2孔と雁足 (がんそく。または鳳足) 2つがあり,弦の一端を雁足に巻きつけて留める。他端は頭部の軫に連結した絨ろうに接続する。弦の調律は軫を回して絨ろうの緊慢により行う。琴面向う側第一弦の外側にはめた 13個の徽 (き。暉とも書く) を目安として弦を押え,右手の親指,人差指,中指,薬指を用いて弾じる。現在,宮,商,角,徴,羽の五声を備える5つの調弦法があり,一,六弦および二,七弦がそれぞれオクターブをなすが,古くは多数の特殊な調弦法があった。左右に複雑多彩な手法があり,繊細な音色とリズムを生じる。また琴の漆面に生じる断紋は形状に応じてそれぞれ賞美されるが,その種類に梅花断,牛毛断,蛇腹断などあり,特に梅花断は数百年を経た楽器にのみ現れるということで珍重されている。
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琴【きん】
中国のロング・ツィター属の撥弦楽器。中国語ではチン。7弦。古琴,七弦琴(しちげんきん)とも。非常に歴史の古い楽器で,すでに周代(前12―前3世紀中ごろ)には重要な楽器だったとされる。胴表には貝をはめこんで徽(き)と呼ばれる13個の〈つぼ〉が取り付けてあり,そこをたよりに音程を変化させる。→瑟
→関連項目琴|箏
琴【こと】
箏(そう),琴(きん)の一般的呼び名。現在ではおもに箏をさし,箏と書いて〈こと〉とも読む。平安時代には〈そうのこと〉〈きんのこと〉といって区別していた。
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琴
広義には東洋の弦楽器の総称で、狭義には琴と箏の類を合わせて呼ぶ名称。箏は柱(じ)を胴面に立てて調弦するのに対し、琴は柱を立てない。現在広く使用されているのは箏で、江戸時代以降は琴といえば、箏の別名となっている。奈良時代に中国の宮廷宴饗楽が伝来し、日本の雅楽となると同時に箏も取り入れられた。普通は全長5~6.4尺(152~194cm)のものを用いる。演奏する際は床または低い台に箏を置いて、演奏者は楽箏(雅楽に用いられる箏)では安座し、俗箏(八橋検校以降の箏曲のもの)では正座する。右手の親指、人差指、中指にはめた爪で、13弦の竜角のすぐ左側を掻く。近世以降の俗箏では、左手の手法が発達しており、音に装飾的変化をつけたり、調弦以外の音を出したりすることができる。調弦は多種多様で、実用されていながら名称のない調弦もかなりある。
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きん【琴 qín】
中国の撥弦楽器,七弦琴ともいう。細長い胴面に水平に弦を張ったロング・チター属(琴・箏類)の代表的楽器。朝鮮,日本にも伝わった。日本では琴の字を〈こと〉とも読み,弦楽器の総称として用いられたり,箏(そう)を指していうことがあるが,琴(きん)と箏は別種である。 琴は表側の槽(そう)に桐,裏板に梓(あずさ)を用い,これらを焼いて漆を塗り胴を作る。古くは長さ3尺6寸6分(約120cm),広さ6寸(約18cm),現在は長さ約125cm,頭部の幅約20cm,尾部の幅約16cm。
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琴[祭礼・和楽器]
こと
関東地方、栃木県の地域ブランド。
宇都宮市で製作されている。材料の桐材は、まず1年間風雨に晒しその後2年間陰干しして乾燥させる。乾燥から弦張りまですべてが手作業でおこなわれる。栃木県伝統工芸品。
出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報
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世界大百科事典内の琴の言及
【楽譜】より
…なお辛亥革命以後の中国では,音の高さをアラビア数字に置き換えリズム記号を付した〈簡譜〉(数字記譜法)がかなり広く行われており,西洋の五線記譜法も必要に応じて補助的記号をつけるなどして用いられている。(2)奏法譜 楽器の奏法譜は琴(きん)(七弦琴)の譜が最も古く,初めて楽書類の中に〈琴譜〉がみられるのは,戴氏撰《琴譜》全4巻(《隋書》巻三十二,志第二十七,経籍一)においてである。これは《晋書》に出てくる戴逵(たいき)の撰んだものと考えられ,4世紀末ころのものと推測されるが,記譜の実際はわからない。…
【箏】より
…弦楽器。東アジアの琴・箏類(ロング・チター属)の一種。細長い胴の表面に水平に多数の弦を張り,柱(じ)を立てて調律したもの。…
【日本音楽】より
…歌謡中心の音楽で,伝承歌謡のほかに即興歌謡も多く行われた。楽器は主として伴奏に用いられ,弦楽器には5弦の小型の琴があったが,やがて大型の6弦の琴に変わった。これが和琴(わごん)または大和琴(やまとごと)と呼ばれるものである。…
※「琴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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