改訂新版 世界大百科事典 「異常酸化数」の意味・わかりやすい解説
異常酸化数 (いじょうさんかすう)
abnormal oxidation number
すべての元素は,化合物をつくるとき一つあるいはいくつかの一定の酸化数をとるのが普通であるが,ある種の元素,とくに遷移元素などでは,きわめて多くの種類の酸化数の化合物が知られており,そのなかでも通常ではみられないような酸化数の化合物を,異常酸化数の化合物といっている。たとえば,古くから知られていた金属カルボニル,金属ニトロシル,古くは知られていなかった希ガス化合物,あるいは遷移金属のシアノ錯塩,イソニトリル錯塩,ホスフィン錯塩,ビピリジン錯塩,サンドイッチ構造を有する有機金属化合物,フルオロ錯塩など多くの種類の化合物でみられる。これらは,(1)結合する相手が強い還元力を有するために低い酸化状態が安定化させられる,(2)相手が強い酸化力を有するため高い酸化状態が安定化させられる,(3)きわめて安定な錯体をつくるため,高い酸化状態あるいは低い酸化状態が安定化させられる,などのような場合にみられると考えられる。
高い酸化数の化合物には,たとえば,K3FeⅤO4,NiⅢ2O3,CrⅤF5,PtⅥF6,KAgⅢF4,K2NiⅣF6などがあり,低い酸化数の化合物には,[Cr0(CO)6],[Mn0(NO)3(CO)],Na2[Fe⁻Ⅱ(CO)4],K3[Mn⁻Ⅰ(CN)6],K4[Ni0(CN)4],[Cr0(CNC6H5)6],[CoⅠ(CNC6H5)5](NO3),[Ni0(PCl3)4],Li[V⁻Ⅰ(bpy)3](bpyはビピリジン),[Cr0(C6H6)2]などがある(化学式中の記号の右上つきのローマ数字はその元素の酸化数を示す)。ただし,このとき酸化数というのは,一定の方法で形式的に電子数を各原子に割り当てて得られる数値をとっているのであり,実際の各イオンがどのような電子状態にあるかをいっているのではない。
第一遷移金属の酸化数は表に示すとおりであるが,このうち〇印の酸化数は1900年ころまでに知られていたものであり,×印はそれ以後に知られたものである。すなわち,これらの×印の多くが比較的異常な酸化数ということになる。しかし異常といっても,それまでに知られていなかったというだけのことであって,現在では多くの化合物が知られており,結合状態の理論的解明も行われ,それほど異常なものと考えられているわけではない。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報