改訂新版 世界大百科事典 「瘤取爺」の意味・わかりやすい解説
瘤取爺 (こぶとりじい)
昔話。頰にこぶのある爺が,山中の洞穴で雨宿りするうちに鬼・天狗の酒盛りに迷い込み,舞や踊りを披露して鬼などの歓心をかう。再び来る約束のためにこぶを取られるが,爺は大喜びで帰る。それを隣の爺が真似する。しかし舞や踊りがへたであったので鬼は喜ばない。質ぐさに取った前の爺のこぶまで付けられて,泣きながら帰る,と語られる。笑話化されて広く知られる。山中で落とした握飯を追いかけながら,酒盛りに出くわすと語る例もある。山中に異郷を想定し,異形のものが異常な力を示すという古い信仰が,この昔話を生み出す基盤になったとする見方が一般的である。《五常内義抄》《宇治拾遺物語》に収載されることから,鎌倉時代すでに行われた伝承であることがわかる。江戸時代《醒睡笑》には,天狗にこぶを取られる禅門の話が記される。中国の文献《笑林評》《産語》などに,この伝承がみえ,朝鮮にも伝えられる。
執筆者:野村 敬子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報