白栲の・白妙の(読み)しろたえの

精選版 日本国語大辞典 「白栲の・白妙の」の意味・読み・例文・類語

しろたえ‐の しろたへ‥【白栲の・白妙の】

① 栲(たえ)で作った製品の意で、繊維製品を表わす、「衣(ころも)」「衣で」「下衣(したごろも)」「袖(そで)」「たもと」「たすき」「帯」「紐(ひも)」「領巾(ひれ)」「天羽衣(あまのはごろも)」「幣帛(みてぐら)」などにかかる。
※古事記(712)下・歌謡「やすみしし 我が大君の 獣(しし)待つと 呉床(あぐら)にいまし 斯漏多閉能(シロタヘノ) 衣手(そて)着備ふ」
② 白栲のように真白なの意で、「君が手枕(たまくら)」「雲」「月」「雪」「光」「砂」「鶴(つる)」「梅」「菊」「卯(う)の花」など、白いものを表わす語にかかる。
万葉(8C後)七・一〇七九「まそ鏡照るべき月を白妙(しろたへノ)雲か隠せる天つ霧かも」
※新古今(1205)冬・六七五「田子の浦にうち出でて見ればしろたへの富士の高嶺に雪は降りつつ〈山辺赤人〉」
③ 白栲の材料としての藤、柏から、地名「藤江」「かしは」に、白栲の木綿(ゆう)の意で「木綿」と同音を含む「夕波」「ゆふつげ鳥」に、浜と続く意で地名「浜名」にかかる。
※万葉(8C後)一五・三六〇七「之路多倍能(シロタヘノ)藤江の浦に漁(いざり)する海人(あま)とや見らむ旅行く我を」
[語誌](1)上代において、「栲」は実際に衣料の素材として用いられていた。そのため、「白栲」は「万葉集」では、衣服に関する語の枕詞として多用される。実生活に即した語ではあるが、一方で「白妙」という美称的表記も用いられ、歌語としての萌芽が認められる。
(2)時代が下ると、「栲」が生活に用いられることはなくなり、それに伴って「白栲」は観念的なものとなっていく。衣服関係の言葉に冠するという用法は継承されるものの、歌語としては元来の用法からかけ離れた例も多く表われ、白色のみが強く意識され、白の象徴としての枕詞になっていく。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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