神に奉献するものの総称であるが、布帛(ふはく)の類をさしていう場合もある。「みてぐら」ともいい、宇豆乃幣帛(うずのみてぐら)、布刀御幣(ふとごへい)、大(おお)幣帛、伊都(いつの)幣帛、安(やす)幣帛、足(たる)幣帛、豊(とよ)幣帛などは、いずれもこの「みてぐら」の美称である。みてぐらの語義は、およそ次の三説ある。(1)ミテ(充)クラ(座)―たくさんの供物を案上に置いて献上すること(賀茂真淵(かもまぶち))。クラとは、物をのせたり、物をつける台となるものをいう。(2)ミ(御)タヘ(栲)クラ(台)の約―ミは接頭語、タヘは古代に用いられた織物の総称で、タヘがテとなった(敷田年治(しきたとしはる))。(3)ミ(御)テ(手)クラ(座)―手に取り持って献(たてまつ)るという意(本居宣長(もとおりのりなが))。テはタムケ(手向)の約ともみられているが、これは音韻学上からは否定されるであろう。
幣帛の品目や数量は、神社により、祭祀(さいし)によって異なるが、『延喜式(えんぎしき)』巻八の「祝詞(のりと)」には、宇豆の幣帛として、御衣(みそ)、武具、御酒(みき)、御饌(みけ)の類が述べられているから、幣帛の本来の意義は、(1)の説が妥当ではないかと思われる。これがのちに狭義に解されるようになり、布帛をさしたり、あるいは、紙垂(しで)を串(くし)に刺した幣束をいうようになった。
第二次世界大戦前の国家神道(しんとう)時代には、神饌(しんせん)と幣帛とを区別し、伊勢(いせ)の神宮の大祭には、五色絁(いついろのあしぎぬ)、錦(にしき)、木綿(ゆう)、麻などの官幣(かんぺい)が奉献され、官国幣社以下神社の大祭には、多く幣帛料(金銭をもってこれにあてたから金幣ともいう)が奉られたが、五色絁、木綿、麻などの現品の場合もあった。幣帛を奉献する者を幣帛使または幣帛供進(きょうしん)使といった。第二次大戦後、神社本庁では、所属する神社の例祭および特定の大祭に、本庁幣として幣帛料を供進する規程を設けている。これを供進する者を献幣使という。伊勢の神宮をはじめとするいわゆる勅祭社には勅使が参向して奉幣するが、このときは五色絁その他の現物である。奉幣の方法は、現物の場合は柳筥(やないばこ)に入れて、幣帛料の場合は大角(だいかく)もしくは雲脚台(うんきゃくだい)にのせて奉献される。
[沼部春友]
神にたてまつるものの総称。幣(ぬさ),〈みてぐら〉(充座の意),〈いやじり(礼代)〉ともいう。一般に神饌に対して布帛の類を幣帛ということもある。幣帛(みてぐら)の上に宇豆乃(うずの),布刀(ふと),安(やす),足(たる),大(おお),豊(とよ)などの美称をつけることが多い。《延喜式》には,幣帛として,絁(あしぎぬ)(粗製の絹布),五色薄絁(いついろのうすぎぬ),倭文(しどり),木綿(ゆう),麻,庸布,刀(たち),楯(たて),戈(ほこ),弓,靫(ゆぎ),鹿角(しかのつの),鍬(すき),酒,鰒(あわび),堅魚(かつお),腊(きたい)(干物),海藻,雑海菜(くさぐさのもは),塩,その他が見える。玉串も幣帛の一種である。現行では,宮中から勅祭への幣帛は青黄赤白黒の五色の絁を柳筥(やないばこ)に納め,神社本庁から全国神社の例祭への幣帛は金銭を幣帛料として紙に包み,大角(だいかく)に載せて奉献され,神葬祭などには紅白の絹を串に挟み幣帛として奉献する。また,紙垂(しで)を串にさし挟んだものを御幣(ごへい)といい,紙垂は白色のほか五色や金・銀などもある。
執筆者:沼部 春友
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「みてぐら」とも。幣(ぬさ)とも。神に供えるものの総称。みてぐらの語源には異説もあるが,「御手座」,すなわち手にもつ神の依代(よりしろ)の意味で,転じて神への供え物となり,律令用語として「幣帛」の字が用いられたと考えられる。一般的な品目は繊維製品が中心で,ほかに魚介・酒・米・海藻・野菜などの食品類,紙・玉・武器・器物などがある。祭祀の種類や神社の格によって,幣帛の品目・数量とも異なっており,「延喜式」に詳しく定められている。
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…幣(ぬさ),〈みてぐら〉(充座の意),〈いやじり(礼代)〉ともいう。一般に神饌に対して布帛の類を幣帛ということもある。幣帛(みてぐら)の上に宇豆乃(うずの),布刀(ふと),安(やす),足(たる),大(おお),豊(とよ)などの美称をつけることが多い。…
…幣(ぬさ),〈みてぐら〉(充座の意),〈いやじり(礼代)〉ともいう。一般に神饌に対して布帛の類を幣帛ということもある。幣帛(みてぐら)の上に宇豆乃(うずの),布刀(ふと),安(やす),足(たる),大(おお),豊(とよ)などの美称をつけることが多い。…
※「幣帛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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