本来は呪力をもつものとして用いられ、のちにその意識が薄れて装飾用に用いられたと思われる。①(イ)(ロ)の古い例にも呪力を意識していると思われるものがある。
古代に女子が首にかけ,左右に垂らして用いた一条の布。褶,比礼,肩巾とも記す。5尺から2尺5寸の羅や紗などを,一幅または二幅に合わせてつくった。古くは男女ともに着用したものらしく,〈比礼掛る伴男〉の語が大祓祝詞に見え,また《延喜式》には元日や即位の儀に,隼人(はやと)が緋帛五尺の肩巾を着用して臨むとある。《古事記》に天日矛(あめのひぼこ)招来の宝物として,振浪比礼(なみふるひれ),切浪比礼(なみきるひれ),風振比礼(かぜふるひれ),風切比礼(かぜきるひれ)が見え,また須佐之男命が,須勢理毘売(すせりびめ)から蛇比礼(へびのひれ),呉公蜂比礼(むかではちのひれ)を得てこれを振り,蛇やムカデ,ハチの難を逃れた話が見える。比礼を振ることに呪術的意味があり,風や波を起こしたり鎮めたり,害虫,毒蛇などを駆除するまじないに用いられたものか。682年(天武11),位冠,襅(ちはや),褶(ひらみ),脛裳や手などの,旧来の服制とともに采女(うねめ)が肩巾を着用することも禁止され,そのためか衣服令には比礼の制は採用されなかった。また諸国からの采女資養物として,大化(645-650)以来〈采女肩巾田〉があったが,これも令制では廃止され,705年(慶雲2)に復活したことが《続日本紀》に見える。
執筆者:武田 佐知子
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古代の衣服の一つ。両肩に後ろから掛けて前に垂らす一幅(ひとの)または二幅(ふたの)仕立ての布帛(ふはく)。肩巾、比礼とも書かれる。領巾の揺れるさまに呪術(じゅじゅつ)的意味を感じたようで、『古事記』に、天之日矛(あめのひぼこ)が持ちきたれる物は振浪(なみふる)比礼、切波(なみきる)比礼、振風(かぜふる)比礼、切風(かぜきる)比礼など宝物が8種あったとあるのもその一例である。『万葉集』にも歌われているが、『日本書紀』天武(てんむ)天皇11年(682)の条に「膳夫(かしわで)、采女(うねめ)等の手繦(たすき)、肩巾(ひれ)は並び莫服(なせそ)」とあって廃止され、養老(ようろう)の衣服令(りょう)に規定はないが、『延喜式(えんぎしき)』縫殿寮の巻の年中御服の条中宮の項、鎮魂祭の項その他に領巾が掲げられ、ふたたび用いられた。平安時代の宮廷女子の正装に裙帯(くたい)とともに着用されたことが、『西宮記(さいぐうき)』『北山抄(ほくざんしょう)』『紫式部日記』『枕草子(まくらのそうし)』などにより知られる。
[高田倭男]
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